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北陸文化

【鷲田めるろのベネチア便り】4 流水

干菓子の「流水」

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和の表現が下支え

 昨夏、金沢の和菓子職人のご指導のもと、干菓子をつくる体験をしました。薄く延ばした水色の生砂糖の生地を二枚重ねて細く切り、両側から押し込んで二重のS字をつくる「流水」です。自然の一瞬の姿を季節感と共に菓子に込める、いかにも日本的な感性です。

 半年後、ベネチア・ビエンナーレの日本館の入り口のグレーチング(金属製の溝蓋(ふた))に、これと同じモチーフを見つけ、驚きました。二重に曲げられた金属の薄板が連なる形は、「流水」そのものです。

 各国のパビリオンは国を代表する建物として、その国をイメージさせる様式がよく用いられます。一方で日本館は、抽象化されたモダニズム建築の典型ともいえるインターナショナルな様式を採用しています。ところが、この「流水」といい、アプローチにある和風の石組みといい、よくみるとあちこちに和のモチーフが使われていることに気づきます。

「流水」をモチーフにしたベネチア・ビエンナーレ日本館のグレーチング

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 「流水」のモチーフを見つけたときは、グレーチング一つに丁寧な造形が施されていることに感心するばかりでしたが、毎日見ているうちに、このグレーチングが建物全体のなかで重要な役割を果たしていることが分かってきました。

 日本館の建物は、白い四角い箱がピロティで持ち上げられ、宙に浮いているような形をしていますが、内部と外部をつなぐ入り口部分だけは、地面に接している必要があります。設計者である吉阪隆正は、コンクリートでできた階段と庇(ひさし)を建物に直につけるのではなく、わざわざ隙間を持たせて設置しています。この隙間を繋(つな)いでいるのが、このグレーチングであり、地面から浮いた四角い箱という設計コンセプトを下支えする役割を担っているのです。そのような重要なパーツであるからこそ、手をかけてデザインしたのでしょう。

 このグレーチングの流水は、展示と建物の橋渡しをしてくれているようにも感じました。水面の表現は、展示する岩崎貴宏さんの重要なテーマだからです。例えば、水に映る像を実体と同じようにつくることによってモノとしては存在しない水面を表したり、黒いビニールシートを海面に見立てたりする作品があります。

 不定形の水をどのように表現するかは画家や彫刻家の個性が顕著に現れるところでもあります。また、そのような表現上の工夫のなかから、「流水」や枯れ山水のような定型的な表現も生まれたのでした。岩崎さんも、こうした伝統的な表現に刺激を受けながら、独自の水の表現に挑戦しています。 (わしだ・めるろ、第五十七回ベネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館キュレーター、金沢21世紀美術館キュレーター)

  ※次回は5月13日に掲載します。

 

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