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北陸文化

【鷲田めるろのベネチア便り】3 水上輸送

野菜なども水上を船で運ばれ、そのまま売られる=ベネチア市内で

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主役は船 「車なし」が新鮮

 ベネチアという街は世界のどことも似ていない、希有(けう)な個性を持った街です。その要因のひとつは、この時代にあって自動車を走らせず、道路の役割の大半を水路が担っていることからきています。

 昨年十二月、それまで広島で制作してきた作品を、港から船で送り出しました。船は二カ月かけて海を渡り、ベネチアに到着。その搬入風景は、通常とはだいぶ異なるものでした。

 通常、美術館の搬入口といえば大型トラックが付ける場所で、来館者の動線と交わらないよう建物の裏側や、地下に設けられます。しかし自動車のないベネチアでは、船がトラックの代わりを果たします。

 各国の展示パビリオンが並ぶ「ジャルディーニ」という公園の中に私たちの日本館もありますが、その公園の中を流れる運可の河岸が搬入口になっていました。そこから各パビリオンまでは、露天の下をフォークリフトで運んでいきます。

 美術館の搬入口を見慣れた私には、船による搬入口も衝撃的でしたが、同様に、ベネチアでは、あらゆるものが船で運ばれます。野菜、ワイン、さまざまな日用品、工事現場に運ぶ建築材料に郵便物、ゴミですら、橋の階段も乗り越えられるような大きなタイヤのついた台車を使って、水辺まで人力でなんとか運び、最終的には船に載せられます。

 タクシーも消防車もパトカーも救急車も船です。自動車が誕生する前につくられた街が、そのまま、モータリゼーションという洗礼を受けることなく残り、人々は当たり前にそこで暮らしています。

 展示設営の途中、急きょ合板が一枚、必要となりました。日本であれば、ホームセンターに車を走らせればすぐに手に入るようなものです。しかし、ベネチアの島内にはホームセンターのような場所は無く、本土から船で運ぶのに結構な費用がかかりました。こうした不便はあるものの、車が無いことで、人がようやくすれ違えるほどの細い路地が街中に迷路のように張り巡らされ、路地を歩く人と建物の中にいる人の距離感が非常に近く感じられます。

 翻って自分たちの生活や、それを支える街そのものが自動車にいかに依存しているかをありありと感じさせてくれました。 (わしだ・めるろ、第五十七回ベネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館キュレーター、金沢21世紀美術館キュレーター)

 ※次回は4月22日に掲載します。

 

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