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北陸文化

【鷲田めるろのベネチア便り】2 古書を探して

作品に使うための本を探すため訪ねた古書店=ベネチア市内で

写真

栞つきの本 見せたい光景

 ベネチア・ビエンナーレ日本館のキュレーターに選ばれたとの知らせを受けて間もない昨年七月、会場の下見などのため、作家の岩崎貴宏さんとベネチアに渡りました。初夏のベネチアは海風が気持ちよく、現場での打ち合わせも順調に進みました。打ち合わせの合間を縫って、岩崎さんと私は今回の展示に必要な「あるもの」を探して、ベネチアの本屋を何軒も回りました。

 土地の限られたベネチアの路地は、狭く入り組んでいて迷路のよう。そのなかで、入り口に「世界で一番美しい本屋」と書かれたとある古本屋を訪れました。狭い通路を入って行くと、細長い店内には本で満杯のゴンドラが置かれています。さらに奥へ進むと運河に面した中庭があり、お店の外にまで古い本がぎっしりと積まれていました。

 その一部は上に板を乗せて階段やベンチとなり、建物や運河との間の壁と一体化しています。あたかも本屋という入れ物から本が外にはみ出し、街へ、そして水面へと溶け込んでいくかのようなその光景に、私は軽く感銘を受けました。

 日本の本の作られ方を振り返ると、糸で和紙を綴(と)じた「和綴じ」と、現在よくみる西洋風に製本された本との間に、モノとしての断絶があるように思います。しかし、ヨーロッパの本は、中世までひとつながり。実際にはそこまで古い本はなかったのですが、本が蓄積し、ベネチアという古い街のなかで一緒に長い時間をかけて朽ちていく様子が、その光景に凝縮されているように感じられました。

 さて、探していた「あるもの」とは、栞(しおり)つきの本です。岩崎さんは、本の栞を一本一本解き、その糸を編み直して本の上にクレーンをつくります。すると、本が建設中のビルのようにみえてくるという作品になるのです。

 私たちは、今回の展示のストーリーに沿って、地殻変動や科学技術などの本を中心に探しました。しかし二人ともイタリア語がよくわからず、表紙の絵を手がかりに選んだため、実は全く関係ない分野の本を手にしてしまったことも。また、日本の本と比べて、栞のついた本自体が少なく、あっても栞がほどけない素材だったりして、何軒も本屋を回る羽目になったのでした。

 五月からの展示では、同じく現地で見つけた中古の丸テーブルの上に、ベネチアと日本で集めた「栞つきの本」を使った作品を展示します。どんな光景を見ていただけるか、私も楽しみです。 (わしだ・めるろ、第五十七回ベネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館キュレーター、金沢21世紀美術館キュレーター)

 ※次回は4月8日に掲載します。

 

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