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北陸文化

【鷲田めるろのベネチア便り】1 洗濯物

公共の道の上空にもロープを張って洗濯物を干しているのがあちこちでみられる=ベネチア市内で

写真

生活と風景入り交じる

 現在、作品設営のため、ベネチアに約三週間、滞在しています。ベネチア・ビエンナーレは二年ごとに行なわれる現代美術の祭典で、今年第五十七回を迎えます。万国博覧会のように国別の参加が特徴で、今回の日本館のキュレーターを私が務めることになりました。岩崎貴宏さんという広島のアーティストの個展を行ないます。五月の開幕に向け、日本から船で送った作品を搬入し、組み立てながら吊(つる)して展示したり、空間にあわせて現場で岩崎さんが新しい作品を制作したりしています。

 ベネチアはアドリア海に浮かぶ島で、ビエンナーレの会場は島の一番東にある公園です。そこに各国のパビリオンが並んでいます。会場近くのアパートを借りて、毎日、岩崎さんや日本館主催者である国際交流基金のスタッフと一緒に歩いて通っています。小さな運河が張り巡らされているベネチアでは船が唯一の交通手段で、自動車も自転車も走っていません。

 アパートから会場までの道には、道路を挟んでたくさんのロープがわたされ、洗濯物が干してあります。ロープは二階以上の窓辺を基点にしていて、人はその下をくぐって歩くのです。ロープは常設で、端に滑車がついていて、一つ干したらロープをずらして送ってゆけるようにつくられています。

 よく乾きそうという実用面もさることながら、向かいの家にまたがっているところが面白いです。公共の道に、プライベートな洗濯物があることで、道が地域で共有する室内のように感じられます。この道には、現在は使われていないようですが、井戸もあります。かつてはこれも共有していたのでしょう。

 今回、五点の作品を展示しますが、その中の一つに、洗濯物を使ったものがあります。ベネチアの現地コーディネーターの方にお願いして、使い古したシーツやタオル、衣類などを集めてもらいました。それを展示室の真ん中に積み上げています。

 入り口に入って目にしたときには分からないのですが、その洗濯物に近づいていってよく見ると、その繊維から引き出した糸で、小さな鉄塔や、観覧車が精巧につくられているのが見えてきます。すると、洗濯物の山があたかも日本の山のように見え始めます。洗濯物の山の中には日本から持って来た温泉のタオルや、伝統的な柄の手ぬぐい、キャラクターの入ったタオルもあり、日本とイタリアの生活と風景が入り交じります。

 第五十七回ベネチア・ビエンナーレ国際美術展は五月から十一月にかけて一般公開される。日本館キュレーターに選ばれた金沢21世紀美術館学芸員の鷲田めるろさんが、世界の現代美術の流れをリードするともいわれるビエンナーレの模様をエッセー風にリポートする。

 わしだ・めるろ 1973年京都府生まれ。東京大大学院美術史学専攻修士課程終了。金沢21世紀美術館の立ち上げからかかわり、主な企画に「妹島和世+西沢立衛/SANAA」(2005年)「イェッペ・ハイン」(11年)「島袋道浩」(13年)「3・11以後の建築」(14年)など。09年にゲント現代美術館との学芸員交流で半年間ベルギーに滞在した。

 ※第二、四土曜日に掲載します。

 

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