トップ > 北陸中日新聞から > 北陸文化 > 記事一覧 > 12月の記事一覧 > 記事

ここから本文

北陸文化

写真の意味問いかける トーマス・ルフ展 金沢21美

自分の作品について説明するトーマス・ルフさん=金沢市の金沢21世紀美術館で

写真

 写真とは何か、あるいは写真がもたらされるイメージとは何か−。誰もが携帯電話で撮影した写真を加工し、インターネットを介して世界中に拡散し、衛星からや街角の監視カメラが膨大な画像データを生み出す世界では、こうした問いに意識的であることの重みがより増しているように思える。世界の写真表現をリードしてきたといわれるドイツの写真家トーマス・ルフさん(58)。金沢21世紀美術館での回顧展は、一九九〇年代以降のデジタル化とインターネットでイメージを変容させ、増殖と拡散を続ける写真というメディアの意味を見る者に問いかけてくる。 (松岡等)

 数えようもない膨大なデジタル写真のイメージの群れはアーカイブに積み重なる一方、いとも簡単に消去されもする。写真は誰もが容易に加工して別のイメージを作り出せるようになっており、インターネットを通じて今、この瞬間も世界中で流通、拡散している。

 意識するしないにかかわらず、私たちはそうした膨大なイメージ環境に生きている。写真が事実を正確に反映するといった解釈はもはや「牧歌的」であり、写真の変容は、イメージを感知する視覚にまで変化をもたらしている。

《Portrat(R.Muller)》1986(210センチ×165センチ)

写真

 例えばルフさんの縦二メートルを超える「ポートレート」のシリーズ。無表情の友人たちを正面からとらえた証明写真のようなイメージは、巨大に引き伸ばしてプリントされたことで別のイメージに変わってしまう。「小さな写真の時に見た人は『これは誰それだ』と名前を言ったが、大きく引き伸ばされた時には『誰それの巨大な写真だ』と言うようになった」と指摘。しかも引き伸ばす技術は「宣伝、広告という目的のために生まれた技術でもある」とも付け加える。

 また写真を蓄積するアーカイブがあれば、撮影することさえなくとも作品は生まれる。小さい時から天文学に興味があったというルフさんは、天体観測所から入手した天体写真を巧みに切り取って新たな構図を決め、引き伸ばすことで美しい作品をつくり出した。

 それは「カッシーニ」のシリーズに引き継がれる。素材にしたのは衛星が撮影した土星の写真。NASA(米国航空宇宙局)がネット上に公開している写真を集め、色を付けることで人工的な幾何学模様が生まれる。「しかもこれらの写真の撮影には人が関与していない」

 デジタル写真のフォーマットで最もポピュラーなJPEG(ジェイペグ)の名前をそのまま借りたシリーズでは、ネット上にあふれた米国同時多発テロの写真などを加工した。デジタル写真の圧縮技術を駆使することであえてモザイクをあらわにし、画像の構造を可視化して見せる。事件のイメージはこんな原理で行き渡っているのだと言わんばかりに。

(上)《cassini10》2009(95.5センチ×108.5センチ)(下)《jpegny01》2004(256センチ×188センチ)いずれも(C)16ThomasRuffVGBild−Kunst,Bonn2016

写真

 「基層」と題された鮮やかな抽象絵画のような作品群は、元々は日本の成人向けコミックやエロチックなアニメの画像が元になっている。しかし画像処理ソフトによって、もはや原形はとどめてないほど解体される。では見ている人はいったい何を見ていると言えばいいのか−。

 ほかにも、ネガの持つ意味や報道写真を問い直し、進化を続けるさまざまな最新技術を駆使しながら写真の持っている特性を作品そのものによって明らかにするルフさんの作品群。学生だった一九七〇年代後半から最新作まで、十八の主要なプロジェクトのテーマ系は、関連し合いながら現代の写真が生み出すイメージの見本市のようでもあり、写真史のパズルを埋める作業でもあるかのようだ。

 展覧会初日の十日にあったトークイベントでルフさんは「そのパズルのピースを集めている途中。タイトルは『写真の文法』であるのか『写真の歴史』であるのかは分からない」と話した。

 ※トーマス・ルフ展は来年3月12日まで。(毎週月曜と12月29日〜1月1日、10日は休み。ただし同2日、9日は開場)

 

この記事を印刷する

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索