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北陸文化

【文学】泉鏡花文学賞授賞式 川上弘美さんスピーチ 鏡花と犀星  

泉鏡花文学賞受賞記念スピーチで泉鏡花の俳句について話す川上弘美さん=金沢市の市民芸術村パフォーミングスクエアで

写真

俳句から見える個性

うすものの蛍を透かす蛍かな 鏡花 

山蛍よべのあらしに消えにけり 犀星 

 第四十四回泉鏡花文学賞を連作短編集「大きな鳥にさらわれないよう」(講談社)で受賞した作家の川上弘美さん(58)。金沢市民芸術村で五日にあった授賞式のスピーチでは、泉鏡花とともに同じ金沢市出身の室生犀星の俳句をそれぞれ紹介しながら、句に表れる作家の個性の違いを紹介した。

 同じ金沢市出身の室生犀星が随筆で鏡花について評している部分を朗読。「文章にあるコクというのかな、重みというか粘りみないなものは出そうと思って出るものではなく、育ってきた場所が作家に与えるものは大きい」と、風土が作家の文章と切っても切れない関係にあると強調した。

 自らも「句集 機嫌のいい犬」(集英社)のある川上さんは、二人の人柄や作風の違いを俳句で明らかにしてみせた。

 まず鏡花。

 飯蛸(いいだこ)の頭つゝきつ小鍋立(こなべだて)

 「潔癖性で知られる鏡花は、谷崎潤一郎らと鳥鍋を囲んだ時には、せっかちな谷崎が生煮えを次々に食べるため、ここから食べないでくれと線を引いたという逸話がある」。この句では小さな鍋を一人で楽しむ様子がうかがえる。

 うすものの蛍を透かす蛍かな

 薄い着ものに描かれたホタルの絵柄が本当のホタルの光で浮かび上がるという鏡花らしい美しさ。

 稲妻に道きく女はだしかな

 山姫やすゝきの中の京人形

などは「まさに鏡花の世界そのもの」と。

 一方の犀星。

 芥川龍之介とともに軽井沢を訪れた際、芥川が俳句をひねる様子を描いた随筆「碓氷山上之月」を朗読し、二人の親交の深さを紹介した川上さん。

 鯛(たい)の骨たたみにひらふ夜寒かな

 芥川は自殺する直前に犀星を尋ねたが、不在にして会えなかった犀星は、それずっと悔やんでいたという。芥川の「風呂桶(おけ)に犀星のいる夜寒かな」の句に、犀星は後に「ふぐりをあらふ哀れなりけり」と脇句をつけた。

 このほかには、

 山蛍よべのあらしに消えにけり

 あるいは、

 寂しくて大きいつららをなめている

 「なんでもないのだけれど、不思議な詩情に満ちている」

 俳句について「短歌よりずっと短くて言えることが少ないからこそ人自身がぽろっと出る」と川上さん。それぞれの違いを俳句で読み比べる楽しさを勧めた。

 川上さんはかつて金沢に講演で訪れた際には空路だったといい、そのあいさつ句で

 春の川二筋雲を抜け来れば

と、上空から見た犀川と浅野川を詠んだ。

 この日は東京から北陸新幹線で山を抜け、日本海側に出てからわずかな時間で金沢に到着。スピーチをこう締めくくった。

 晩秋の海を見てより小半時

 

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