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北陸文化

【本】生ききること=アート 「ホスピスからの贈り物」横川善正さんに聞く

「アートは死というままならないものとの対話から生まれるのでは」と話す横川善正さん=金沢市内の自宅で

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 金沢美術工芸大名誉教授の横川善正さん(67)が新著「ホスピスからの贈り物−イタリア発、アートとケアの物語」(ちくま新書)を出版した。交流を重ねるイタリア北部の街・トレビーゾにある小さなホスピスの、理想的ともいえるケアの在り方から「アートはホスピタリティー」という横川さん。「ターミナル・アート」という自らの造語で、アートの可能性を問う。 (松岡等)

 ◇ ◆ ◇

 トレビーゾはベネチアのやや北の小都市。かつてはベネト州有数の絹織物の産地だった。ホスピス「桑の木の家」という名前も盛んだった養蚕から。終末期患者の自宅介護のボランティア組織から発展して二〇〇四年、横川さんが英国留学時代に知り合って長く親交が続いていたアンナ・マンチーニさんを中心に開設された。ゲストと呼ばれる利用者は、がんの進行あるいは末期の患者で、家では十分な介護を受け入れられない人々。療養、治療はすべて無償で、延べ五百人の市民ボランティアが支える。

 「患者とその家族、医師、看護師、ボランティアが、誰にも等しく訪れる死を通して成長する場所。さまざまな体験と知識を持った人々が、人間の命の尊さについて互いに教え、学び、生きがいをもらうところ」という理念を掲げ、地域社会も巻き込んでゆく。その理念に横川さんは長年、携わった美術教育と「深いところでつながっていった」という。

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 寄付や独特の税制を活用した資金集めの手法を含めた運営自体が「アート」と呼べるほどだが、ここの日常には、さりげなく飾られる絵画、地元の音楽家の提供する質の高い音楽、農業と食がもたらす豊かさがある。それによって「終末期の患者が人生を最期まで生き直す場所。自分自身のアイデンティティーの確認の場」となっている。金沢で金沢美大の学生とホスピスの交流などの実践も続けている横川さんは医療の現場にこそアートというケアの力が必要と強調する。

「ホスピスからの贈り物」

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 では逆に「ホスピスというのぞき窓」から見た時、あるべきアートとはどういうものか。「ターミナル・アート」という言葉で横川さんは「やがて消えゆくもの、限りあることを宿命とする存在に、心を重ね、目を凝らしてみてはどうだろうか」と問いかける。

 「もう一度自分に『おまえは何に動かされてモノをつくったり、表現をしたりしているのか』と問いかけてみる」。限りある生を豊に生きようとするホスピスから見れば、自己表出こそアートだという常識が揺さぶられる。

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 最終章で横川さんは、二千人以上をみとったアンナさんの言葉を引く。「限りあること、失われてゆくものから目をそらしたら、その中にある一番大切なものが掴(つか)まえられないでしょう。ここでゲスト(利用者)との時間を過ごせば、アートの制作と同じくらいに、あなたのクリエーティブな力を試されることになるはずです」

 それはアーティストにだけの問題ではない。ホスピスからの視点で世界を見ることは「モノとお金、情報のなかで埋もれ、飽和、麻痺(まひ)していく自分を呼び覚まし、本当の自分を取り戻す」ことにつながるだろう。

 よこがわ・よしまさ 1949年金沢市生まれ。専門は英国文芸、デザイン論。アートミーツケア学会理事、金沢市立病院、済生会金沢病院での医芸連携プロジェクト顧問。著書に「誰も知らないイタリアの小さなホスピス」(岩波書店)、「ティールームの誕生−<美覚>のデザイナーたち」(平凡社選書)ほか。「ホスピスが美術館になる日−ケアの時代とアートの未来」(ミネルヴァ書房)で泉鏡花記念金沢市民文学賞。

 

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