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北陸文化

【オペラ】“歌芝居”魅力いかに 寄稿 潮博恵(音楽ジャーナリスト)

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プラハ国立歌劇場「魔笛」上演に寄せて

 チェコのプラハ国立歌劇場によるオペラ『魔笛』の公演が三十一日、金沢市の本多の森ホールである。モーツァルト晩年の傑作が、オーケストラ、合唱団、衣装、舞台まで現地そのままの引越公演で楽しめる絶好の機会だ。公演を前に音楽ジャーナリストの潮博恵さんにヨーロッパオペラの魅力について寄稿してもらった。

 クラシック音楽が身近にある生活を長年送ってきた私には、もし「何でもかなえてあげるから、あなたの願いを一つ言ってごらん」と言われたら、迷わずリクエストしたいことがある。それは古今東西の名曲を、作曲された当時にタイムスリップして当時の人の感覚で聴いてどう感じるか試してみたい、ということだ。何せ今私たちが聴いているクラシック音楽は、現代の研究に基づく楽譜、楽器、演奏法によるものだし、何よりも私たちの感覚が調性音楽を超えた二十世紀以降の響きやテクノロジーの時代をふまえたものなので、作曲当時の人々の感覚を追体験することが不可能だからだ。

 当時の聴衆はどう受け取ったのだろうか? そんな思いを馳(は)せずにはいられない作品の一つがモーツァルトの歌劇『魔笛』である。当時の正統と言えるオペラ発祥の地イタリアの様式によるイタリア語の歌劇ではなく、ドイツ語によるジングシュピール(歌芝居)。一七九一年に初演された場所も皇帝が臨席する劇場ではなく、ウィーン城郭外のフライハウス劇場という庶民的な客が集まる場であった。まさに市民社会が勃興する中で生まれた作品だ。『魔笛』と言えば、パパゲーノが歌う「おいらは鳥刺し」から始まって夜の女王の二つのアリアはもちろん、合唱に至るまで誰もが耳にしたことがある曲のオンパレード。これらは現代の私たちの耳には天上から降ってきたとしか思えないような美しさを湛(たた)えているように聴(き)こえるが、当時の人々にはオペラの伝統に対する挑戦に聴(き)こえたのだろうか?

プラハ国立歌劇場による「魔笛」の1場面

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 『魔笛』の最大の魅力は当然これらの音楽にあるが、セリフのやりとりの妙も魅力の一つである。そしてセリフから音楽に移ってからも劇としてのエネルギーが全く停滞しない点も歌芝居たるゆえんだ。ドイツ語圏でこの作品の上演に接すると、聴衆の反応も含め、いかに「劇」であることに力点が置かれているかということを痛感する。それは言語による受容の壁を感じる瞬間でもあるのだが。

 今月金沢でプラハ国立歌劇場による『魔笛』の公演が開催される。歌劇場の管弦楽団や合唱団を含め総勢百七十名による、現地の衣装・舞台セットを用いた引越公演だ。現代の日本において、日本の団体によるオペラ公演が数多く行われている中で海外の歌劇場の公演を体験する楽しみはどこにあるのか? 私はそれぞれの劇場や団体が育んできた個性の「違い」を発見する面白さがあることを挙げたい。

 海外の歌劇場には例えば、ドイツやフランスだったら前衛的な演出、米国だったらスターによるわかりやすいプロダクションなど大まかな特色がある。今回のプラハ国立歌劇場は伝統的な演出によるようだが、百三十年近い伝統を持つチェコの歌劇場はどんな個性を持っているのだろう? 歌手をはじめ、オーケストラや合唱のアンサンブル、衣装や演出などが総合されて醸し出される彼らの個性は、私たちに発見の楽しみと伝統の重みをあらためて認識させてくれるに違いない。

 うしお・ひろえ 石川県野々市市生まれ。音楽と社会とのつながりをテーマに執筆活動を展開。著書に『オーケストラは未来をつくる−マイケル・ティルソン・トーマスとサンフランシスコ交響楽団の挑戦』『古都のオーケストラ、世界へ!−「オーケストラ・アンサンブル金沢」がひらく地方文化の未来』(ともにアルテスパブリッシング)

プラハ国立歌劇場「魔笛」金沢公演

31日 本多の森ホール

◇会場 本多の森ホール(金沢市石引4−17−1)

◇日時 10月31日(月)▽開場 午後6時▽開演 午後6時半

◇料金(全席指定)▽SS席 16000円▽S席 12000円▽A席 9000円▽B席 6000円

◇主催 石川テレビ放送、北陸中日新聞

◇後援 石川県、金沢市、富山テレビ放送、福井テレビジョン放送

◇問い合わせ 石川テレビ放送事業部=電076(267)6483

 

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