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北陸文化

【文学】北区内田康夫ミステリー文学賞 大賞に島村潤一郎さん(金沢) 小さな木の実 

受賞作について語る島村潤一郎さん=中日新聞北陸本社で

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書き続けてきてよかった

 優れた短編ミステリーに贈られる第十四回北区内田康夫ミステリー文学賞の大賞に、金沢市の高校教諭島村潤一郎さん(51)の「小さな木(こ)の実」が選ばれた。大学一年から公募展に挑戦し続けて三十年余。知命を超えての受賞に「長かった。書き続けてよかった」と感慨もひとしおだ。 (鈴木弘)

 受賞作は社内不倫が元で職を失い、離婚の危機にある三十八歳の男が主人公。金沢市を舞台に小学生の二人の息子の知恵を借りながら、急逝した父が残した謎のメッセージから遺産のありかを捜す筋立てで、高校で演劇部顧問を務める姉が大きな役割を果たす。

 内定の連絡があったのは二月半ば、マイカーで帰宅する途中だった。急いで駐車場に車を止めて折り返し電話をした。「それはうれしかったですよ。十九歳のころから書いてきましたから。ここまで長かったけど、挑戦し続けてきてよかったと思います」

 ミステリーを書く上で好きなのが「死者からの手紙」という設定だ。音楽から刺激を受けることも多い。耳に残っていた歌と不在の父からのメッセージが物語の起点になった。二〇一三年の冬、旅行先のスペインのホテルで書き始め、実質六日ほどで仕上げた。

 今回は二百十二編の応募があり、五編が最終選考に残った。選考委員の推理小説研究家山前譲さんによると、「どんでん返しも仕込んだハートウオーミングな真相は、読後感がじつに爽やか」「文章の安定感は一番」などと評価され、受賞はすんなり決まった。

大賞作品が掲載された「月刊ジェイ・ノベル4月号」(実業之日本社)

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 同文学賞で島村さんが最終選考に進んだのは二回目。五年前に特別賞を受賞した際、内田さんから、評価の一方で「自殺を真剣に考える人物が、謎かけのようなまねをするかどうか」などと指摘されたことが、作品の完成度を高める大きな原動力になった。

 小さいころから「本の虫」で、ルパンやホームズに夢中になり、図書館に入り浸ってはエラリー・クイーン、アガサ・クリスティ、ディクスン・カーなどの推理小説を読みあさった。潤一郎の名前は文学好きの母親が文豪谷崎にあやかって付けたという。

 「金沢には物づくりをする人の創作を大切にする文化的風土がある」と島村さん。今後は地元を舞台にした短編作品集の出版を目指すとともに「長編も書かなくてはいけない。ルネサンス期のヨーロッパなど現代の日本以外の作品にも挑戦したい」と考えている。

 島村潤一郎 1965年、金沢市生まれ。早稲田大第一文学部演劇専修卒業。大学時代は8ミリ映画を製作。「誕生」で第9回北区内田康夫ミステリー文学賞特別賞。第25回と第34回の小説推理新人賞で最終候補となった。現在は金沢大付属高校の国語教諭で、演劇部の顧問を務める。

 

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