クロード・モネ≪睡蓮≫(部分)1906年、油彩・カンヴァス、吉野石膏株式会社(山形美術館に寄託)

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睡蓮へのまなざし(上)

2018年4月20日 中日新聞朝刊

実は…現代美術の先駆者でもあった

 日本で圧倒的な人気を誇る印象派の画家たち。中でも「巨匠」の称号が最も似合うのは、クロード・モネだろう。だが、その肩書は、もしかしたら作品鑑賞の幅を狭めているかもしれない。25日から名古屋市美術館で始まる「モネ それからの100年」は、彼の少し意外な側面に気付かされる企画展だ。印象派という一つの時代を象徴する絵画の枠を超え、現代の美術家を刺激し続ける新しさ。開幕を前に、奥深い魅力を2回にわたって紹介する。(中村陽子)

クロード・モネ「睡蓮の池」1907年、和泉市久保惣記念美術館蔵(6月10日まで展示)

クロード・モネ「睡蓮の池」1907年、和泉市久保惣記念美術館蔵(6月10日まで展示)

 「モネの不幸は、印象派の第一人者というレッテルにあったとも思います」。実践女子大の六人部(むとべ)昭典教授(65)が指摘する。「このため一時は、忘れられかけた作家なのです」

 それは1926年、モネが没したころ。集大成となる「睡蓮(すいれん)」の連作などを残したにもかかわらず、世間からいい評価はされなかった。セザンヌやゴッホなどポスト印象派と呼ばれる画家たちに乗り越えられた存在として、あまり顧みられなくなっていたのだ。

 風向きが変わったのは、第二次大戦後。米国で花開いた抽象表現主義との関連を中心に、彼の作品から現代美術につながるさまざまな布石が見いだされるようになった。

 たとえば画家の身体の動きをしっかり伝える筆跡。そして実体のない光という題材…。晩年にかけて、絵からは焦点や遠近もなくなり、抽象の領域に近づく。「モネは形を再現するという約束事から絵を解放した。視力の衰えで自然にそうなった面もあるでしょうが、私は、それだけではないと思います」と六人部教授。「印象派を率いただけでなく、現代美術の先駆者でもあったという点は、もっと広く認識されてもいいのでは」

 実際、今も第一線の表現者たちが、彼の投げた「問い」と向き合っている。本展では、初期から晩年のモネの絵画26点とともに、後続作家たちの現代美術作品63点を並べ、両者のつながりを示す。

福田美蘭さん 新作「睡蓮の池」

福田美蘭「睡蓮の池」(2018年、作家蔵)

福田美蘭「睡蓮の池」(2018年、作家蔵)

 画家の福田美蘭さん(55)は、モネ作品から着想した2点を出す。うち1点は本展のための新作「睡蓮の池」だ。

 描かれているのは、夜景の美しいレストラン。白いテーブルクロスが、池に浮かぶスイレンにそっくり。よく見ると、室内の光景は、窓に映ったものだと分かる。

 「太陽光の微妙な移ろいが、印象派の大きなテーマでしたが、現代の社会で光を意識するのは夕刻からの時間だと思いました」と福田さん。実際に目の前に広がる都会の夜景と、ガラスに反射する像とを画面の中で交錯させた。「モネの絵も、1枚の中で虚像と実像とが混じり合っています」。モネの「睡蓮」を思わせる絵でありながら、夜と昼、自然と人工など主要な要素があべこべになっているのが面白い。

 福田さんは、制作にあたって、モネ作品が展示されている美術館に繰り返し足を運んだ。前に立つと「私の目がモネの目になるようなゆらぎを感じる」と話す。「自分はこう見た、という主観が、画面に表れている。描くとはどういうことか、見るとはどういうことかを、問い掛けているようです」

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