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中日新聞×NHK名古屋 災害死ゼロは可能か?

 災害大国・日本。ハード、ソフトの両面で教訓に基づく備えを進めていながら、自然災害の悲劇は毎年のように繰り返されている。10年、50年、100年。時間はかかっても、いつかは犠牲者をなくしたい。「災害死ゼロ」の未来を記者たちが探る。

津波察知、空からより早く 発生時の電離層に着目

 東日本大震災で甚大な被害をもたらした津波。より早く、より正確に規模や到達時間を予測できたら−。「災害死ゼロ」の可能性を探る中日新聞とNHK名古屋放送局のコラボキャンペーン第3回は「いち早く津波を捉えろ」。新たな予測システムの開発や運用に取り組む研究機関を取材した。

電離層と津波の関係を説明する東京学芸大の鴨川仁准教授

電離層と津波の関係を説明する東京学芸大の鴨川仁准教授

 「津波が起きて海面が隆起すると、その上空の電子の数が少なくなることが分かりました」。東京学芸大の鴨川仁准教授(地球惑星電磁気学)は、地上約80〜1000キロの上空に電子が浮遊している「電離層」と津波の関係に着目した。

 鴨川准教授は、津波発生後、海面が上下して空気が振動する影響で上空約300キロの電離層の電子が押しのけられ、層に穴が開く現象が起きることを突き止めた。さらに発生場所近くの衛星利用測位システム(GPS)の電波が乱れることで、津波が起きた位置などを確認できるという。

 過去20年間に太平洋で発生した津波について、GPS7基と日本国内にある約1000カ所の受信機のデータを分析し、津波の規模を算出するプログラムを作った。津波発生から電離層に穴ができるまで最低8分かかるが、規模や場所によっては地震計や海底の津波計を利用するより早く津波の発生場所や規模、陸地への到達時刻が正確に予測できる可能性がある。まだ研究段階だが、鴨川准教授は「より早く大きな津波の発生を観測できれば、人々が避難する時間を確保できる。他の研究や技術との連携によって、いち早く危険の兆候を察知できるのでは」と期待する。

上空の電子から津波を予測する仕組み

上空の電子から津波を予測する仕組み

 連携を考えるのは、国立研究開発法人「防災科学技術研究所」(茨城県つくば市)が運用する「地震・津波観測監視システム(DONET)」だ。DONETでは、三重県沖の熊野灘から高知県室戸岬沖までの海底51カ所に、地震計と水圧計を取り付けた計測装置を設置。それぞれをケーブルでつなぎ、津波全体の動きを捉える仕組みで、2011年に本格運用が始まった。観測したデータは緊急地震速報や津波予報などに使われている。

 同研究所地震津波火山ネットワークセンターの高橋成実・副センター長は「鴨川准教授の研究との連携は、予測の精度を増すことができるかもしれない」と前向きだ。サイエンスライターの竹内薫さんは「津波被害を防ぐためには、複数の技術を併用することが大切だ」と指摘している。(天田優里)

津波、浮いて逃げよ 救命艇やシェルターの開発進む

 東日本大震災の死者のうち、9割以上の約1万4千人が津波にのまれて命を落とした。高台に逃げるのが遅れて溺死するのを防げないか−。「災害死ゼロ」の可能性を記者たちが探る企画の第2弾は「浮かんで逃げる」。津波にのまれることなく身を隠して逃げ切るシェルターやカプセルの開発、導入が進みつつある。

敷地の一角に置かれている津波救命艇「とよたま」=三重県志摩市で

敷地の一角に置かれている津波救命艇「とよたま」=三重県志摩市で

 白い緩衝材が取り付けられたオレンジ色の潜水艇のような船体が異彩を放つ。25人乗りの津波救命艇「とよたま」。三重県志摩市の浜島地域密着型ケアセンター「シルバーケア豊寿園(ほうじゅえん)」の駐車場脇に、2014年3月から置かれている。

 ケアセンターは熊野灘から約400メートル、海抜5メートルの場所にあり、志摩市によると、南海トラフでマグニチュード(M)9級の巨大地震が発生すれば、22分で最大高さ18メートルの津波が到達する。

 「敷地内に避難施設ができないか」。運営側職員の建井(たてい)賢士さん(42)によると、ケアセンターには日中は高齢者約20人と職員9人が滞在。当初は津波避難タワーを検討したが、「高齢者が上るのは難しい」と断念し、大手重機メーカーが製造販売する津波救命艇の導入に切り替えた。価格は1千万円以上だが、「人命には代えられない」と購入を決めた。

 救命艇は全長8・4メートル、幅2・9メートル、高さ3・1メートルで、ガラスや炭素繊維などを組み合わせたプラスチック製。25人分の座席にはヘッドレストとシートベルトが付いている。脱出口は側面と天井に計五つ。床には7日分の非常食と水が備蓄できる場所も。救難信号の発信装置を使い、浮かびながら自衛隊などに助けを求めるという。

シートベルト付きの座席が並ぶ船内=三重県志摩市で

シートベルト付きの座席が並ぶ船内=三重県志摩市で

 ケアセンターは2カ月に一度、救命艇を使った避難訓練を実施。乗船するのは体が動く高齢者で、車いす利用者は300メートルほど離れた高台まで避難させる。職員の田辺保輝(やすてる)さん(44)は「利用者に『救命艇に逃げる』という意識を持ってもらえている」と話す。ここで暮らす川口あきさん(95)は「船があって安心」と喜ぶ。

 救命艇のような津波対策用の防災シェルターは、東日本大震災後に各地の企業が開発、販売に乗り出した。東京都日野市の「光レジン工業」は、押し入れやリビングに設置できるシェルターを販売。箱形で大人4人が入れる。愛知県豊田市の「伊勢産業」でも大人2人から10人を超えるものまで8種類のシェルターを開発。12人乗りが売れ筋という。山本憲男社長(75)は「子どもたちを守るため、さらに開発を続けたい」と意気込む。

 いざとなったら、本当に浮かんで逃げられるのか。静岡大防災総合センター長の岩田孝仁教授は、高台に逃げることが一番と指摘するが、「救命艇やシェルターは逃げ遅れた人の最後の手段になりうる。自力で走行できる機能があればさらに安心」と話している。(天田優里)

「タケコプター」で津波死防げ 名古屋の企業、人運ぶドローン実験

被災者に見立てた人形を持ち上げるドローン=愛知県豊田市で

被災者に見立てた人形を持ち上げるドローン=愛知県豊田市で

 小型無人機(ドローン)の製造技術が目覚ましい発展を遂げている。将来は津波に襲われた際、タケコプターのようにドローンを体に取り付けて飛んで逃げられるようになるかもしれない。

 名古屋市中区にある「プロドローン」は、産業用ドローンメーカーとして世界のトップを走る企業。中日新聞とNHKの依頼を受け、6月23日、被災者に見立てた人形を持ち上げる実験を愛知県豊田市で実施した。

 実験では、最初に6つのプロペラを持った産業用ドローンが重さ30キロの人形を7メートルまで持ち上げた。次に用意されたのはアームが取り付けられたドローン。重さ10キロの人形をアームでつかんだまま上空15メートルまで難なく浮上した。

 プロドローンの社長河野雅一さん(59)は「日本の企業として、津波の際に5分でも10分でも飛んで内陸に逃げられるようなドローン開発をするべきだと思っている」と語る。

 プロドローンは、運びたい物に取り付けて飛ばす形のドローン開発も進める。もちろん、技術的、法的に今すぐに人を飛ばすことはできないが、それはまさに「タケコプター」と同じ発想だ。

三浦勝美さん。常にライフジャケットを車に積んでいる=宮城県南三陸町で

三浦勝美さん。常にライフジャケットを車に積んでいる=宮城県南三陸町で

 車には、いつもライフジャケットを積んでいる。「タケコプターがあったら、みんな助かったのに」。宮城県南三陸町の職員三浦勝美さん(55)は、家族と今もそんな話をする。

 2万人近くの命が失われた2011年3月11日、激しい揺れの後、三浦さんが逃げたのは防災庁舎の屋上だった。津波は陸に入り込み、周りは一面の海水に。止まる気配のない水が屋上に向かって上がってくる。

 「何かにすがれ」。同僚の声が聞こえた。三浦さんはアンテナの根元につかまった。足元がぬれて冷たくなった。水しぶきが降り掛かってきたかと思うと、体が水に沈んだ。

 「まるで自分がこいのぼりになったみたいに、海水に体を持っていかれそうになった後、指がアンテナの根元から離れた」

 津波にのまれると、上下も分からなくなった。海面に上がろうともがいたが、無駄だった。「ダメだ」と諦めそうになった時、目の前に材木を見つけてつかまった。助かるには不十分だと思い、漂っていた畳に乗った。「絶対死なねぇ」。その上で何度も叫んだ。

 防災庁舎の屋上からは30人以上が流されたが、生き残ったのは三浦さんだけだ。

 東日本大震災後、自分だけが助かったとの意識に苦しめられた。一人で車を運転している時には、津波を思い出し何度も涙を流した。パチンコで大当たりしたら、泣けてきた。「あいつらも、やりたかったべな」

ドローンの実験を取材する中村禎一郎記者(右から3人目)とNHK取材班(左から4人)=愛知県豊田市で

ドローンの実験を取材する中村禎一郎記者(右から3人目)とNHK取材班(左から4人)=愛知県豊田市で

 三浦さんにとって、「この先どう生きていくか」が人生のテーマとなった。「みんな、十分に悲しい思いをした。この先はできるだけ笑って暮らしていく」

 自らの経験を語る際には、「死ねば家族が一番悲しむ。家族のために助かろう」と訴えることにしている。「ライフジャケットが、タケコプターがあれば、こんな苦しい思いをしなくて済んだ」

 (社会部・中村禎一郎)

中日新聞とNHKがコラボ

 中日新聞とNHK名古屋放送局は、防災コラボキャンペーン「災害死ゼロは可能か? 記者が探る未来図」を始めます。自然災害の犠牲者を減らす取り組みをテーマに取材し、それぞれの紙面と番組(放映は愛知、岐阜、三重)で、随時掲載、放映していきます。


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