噴火の危険 見つめ直す

代表的火山の現状と対策

2014年11月12日朝刊13面

 多数の犠牲者を出した御嶽山の水蒸気爆発。予期せぬ火山噴火の怖さをあらためて認識させられた。日本には登山者や観光客でにぎわう火山が多くある。それらの山で同じ悲劇が起こる可能性はないのだろうか。どうすれば防げるのだろうか。地元では戸惑いの声も上がる。富士山や浅間山など代表的な山の現状と、防災への取り組みを見た。(科学部・永井理、榊原智康)

富士山

複数の火口、課題も多岐に

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富士山は噴火する可能性のある場所が広い=本社ヘリ「あさづる」から

 突然の噴火への備えは富士山の大きな課題だ。山の規模は御嶽山を上回り、登山者も桁違いに多い。御嶽山が年間数万人なのに比べて富士山では約30万人に上る。

 富士山は美しい円すい形の斜面に覆われ、避難が難しく身を隠す場所も少ない。静岡県の川勝平太知事は10月の会見で「御嶽山の噴火で、シェルターのようなものがないと逃げられないとはっきりした」と述べ、避難小屋や避難壕(ごう)の設置を検討していることを明かした。だが、難しい問題もある。

 富士山は「噴火のデパート」だ。山頂でも山麓でも噴火する。前回の宝永噴火(1707年)は、中腹に火口ができた。今の富士山は火山性ガスも出ておらず、どこで噴火するか見当をつけるのは難しい。防災マップによると、五合目より上はどこでも噴火が起こりうる。

 「どこでも不思議はない中、シェルターをつくるならまず登山道と下山道」と静岡県富士山世界遺産課の小坂寿男課長。一日の登山者数は今季最大で8800人だった。御嶽山の例でも長距離は避難できない。多くのシェルターが必要だ。

 一方、富士山は世界文化遺産で国立公園だ。景観保護など厳しい規制がある。「世界遺産の山でどういうふうにつくれるのか。規模、数はどうすべきか。まだ内部で検討しているところ」と折り合う点を探る。

 各地で義務化が検討される登山届も難問だ。今は「夏場以外」の登山者に必ず届けるよう呼び掛けている。夏場は、全員が届け出ると一日に一万通近くに上り管理が難しいからだ。

 大規模な噴火では、マグマの上昇で、地震が起きたり山が膨らんだりする。監視すれば予知できると期待されている。

 ただ、江戸に火山灰が積もった宝永噴火でも本格的な地震は前日だった。2008年のチリ・チャイテン火山の大噴火も、地震が観測されたのは27時間前。大噴火でさえ「分かるのはよくて数日前、もしかしたら数時間前」というのが専門家の見方だ。水蒸気爆発はさらに難しい。

 10月の火山噴火予知連絡会では、小規模噴火の前兆を捉えるため火山ガスや磁場の監視が必要との意見も出た。だが、異常を捉えても爆発までの時間は短い。登山者にどう情報を伝えるか。緊急地震速報のようなことができるのか、など検討課題は多い。

 巨大な富士山では、すべての課題の難度が高い。世界遺産となり外国人観光客への配慮も必要だ。対応が各地から注目されている。

浅間山

計300人収容のシェルター

 今の噴火予知の基礎ができたのは浅間山だ。よく噴火するためデータが豊富だからだ。江戸以前から記録が多くあり、明治-昭和前半は毎年のように噴火した。地元自治体では、携帯電話を使うなど、登山者の安全確保を図る。

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浅間山の立ち入り禁止区域近くに設けられたシェルター

 浅間山では平常時の噴火警戒レベル1でも、火口から500メートルは立ち入り禁止だ。「小規模な水蒸気爆発は前触れなく起こる危険性がある」(気象庁浅間山火山防災連絡事務所)という考え方だ。噴火を繰り返した歴史があるからだ。

 最近は2004年に微小な爆発も含め1960回の噴火があった。だが、2009年後半から静かな状態で、登山者も増えた。登山道では火口から500メートルにロープが張られ「立ち入り禁止」の看板が立つ。だが、ロープをまたいで進む登山者も多い。紅葉シーズンには、ロープを越えた人が列になって火口に向かうこともあるという。

 長野県小諸市の防災担当者は「御嶽山の爆発で、噴火は突然起こるという認識を新たにした。火山館(山腹の火山学習施設)を通じ、火口に近づかないよう呼び掛けたい」と話す。

 浅間山では、登録した登山者の携帯電話に電子メールで火山情報を送るポータルサイトも設けている。登山届にも利用できそうだが、利用者が年間600人ほどと伸びないのが課題。11月中にも、PR看板を登山口と火山館に新設する。

 噴火警戒レベルが1から2(火口周辺規制)に上がると立ち入り禁止区域を火口から2キロに広げる。3(入山規制)だと4キロだ。

 急な噴火にも備え、登山道にはシェルターがある。火口から500メートル、2キロ、3キロの3カ所に計4基あり、300人を収容できる。同市では、御嶽山の噴火を受けて登山道を点検し、噴火情報を登山者に伝えるスピーカーの作動も確認した。

 シェルターは過去の噴火で壊れたこともあり「強度や規模が十分か自治体では判断が難しい。国が基準を示してほしい」と訴える。

焼岳

山小屋にヘルメット用意

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山頂付近から、わずかに白煙を上げる焼岳

 焼岳は長野県松本市と岐阜県高山市にまたがる活火山だ。日本アルプスを代表する景観の上高地は焼岳の活動でできた。今もわずかに白煙を上げるのが、麓からも見える。山の周辺で道路工事中に、水蒸気爆発が起きて犠牲者が出るなど、危険な側面も持つ。

 焼岳の麓を流れる梓川はもとは岐阜県側に流れていたが、約3万年前に周辺の火山の噴火で流路をさえぎられ、長野県側に流れるようになった。

 流れを変えた梓川に浸食され、本来は地下深くにある熱い地層が地表近くに出てきてしまった。10メートルも掘れば100度近い温度になる。おかげで温泉が湧くが、何かの弾みで岩盤が動くと爆発を招きかねない。

 それが1995年に実際に起きた。山頂から南東へ3キロの松本市安曇で、道路工事中に水蒸気爆発が起きて作業員4人が死亡した。現場にはガス抜きの井戸が掘られ、今も注意深く観測が続けられている。

 焼岳のマグマ噴火は、4000年前と2300年前に起きている。大規模なマグマの動きは地表に現れるので予知はおそらく可能だ。

 水蒸気爆発はもっと頻繁で予知が難しい。焼岳では明治末から昭和初めに毎年のように小爆発した。大正池はこの時の泥流でできた。62年にも爆発で山小屋が壊れた。次はいつ起きてもおかしくない。

 御嶽山の噴火を受けて松本市では、山頂から1.5キロの市営山小屋にヘルメット38個を置いた。山小屋は老朽化し、シェルターの新設も考える。「ただ、広い山域でどこにどれだけつくればいいのか。国に基本的方針を示してほしい」と同市危機管理課の板倉章課長。山頂への携帯電話のエリア拡大などとともに、長野県を通じて国に要望しているという。

 当面は、爆発が突然起こる可能性があることを知らせる立て札を、登山口に新設する計画だ。

箱根

避難方法探る観光地

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カルデラ中央に、現在も活動を続ける神山などの火山や大涌谷がある。その向こうには芦ノ湖が見える=本社ヘリ「あさづる」から

 箱根山は誕生50万年の古い火山だが、今も現役だ。大噴火でできた直径約10キロのくぼ地(カルデラ)には、噴気が上がる大涌谷や、噴火で川がせき止められてできた芦ノ湖など、火山ならではの見どころが多い。年間2000万人が訪れる大観光地でもある。

 カルデラ中央、神山に近い大涌谷は約3000年前の噴火でできた谷間だ。今も火山性ガスや水蒸気が立ち上る。周辺では数百年前にも水蒸気爆発があり、今後も可能性は否定できない。

 大涌谷では1933年、ごう音とともに水蒸気やガスが噴出し、1人が死亡した。2001年には群発地震が起きて地盤が隆起し、噴気の勢いが強まった。温泉用に噴気を取る井戸が壊れ蒸気が噴き上がり、ピーッという噴出音が谷を渡るロープウエーにまで聞こえた。油断はできないのだ。

 大涌谷に向かうロープウエーは年間の乗客数が世界一。ギネスブックに載る。昨年は220万人で、大涌谷周辺はピーク時に2000人の観光客がいるという。

 シェルターはない。神奈川県箱根町の総務防災課では「ロープウエー駅や観光施設など避難できる鉄筋コンクリートの建物がある」と説明する。火山性ガスが増えたとの想定で、客を建物に避難させる訓練もしたという。

 周辺の散策道は施設から最大300メートルほど離れている。現状で十分かどうか、地元自治体でつくる箱根火山対策連絡会議で、今月中にも検討を始める。

 噴火警戒レベルが2(火口周辺規制)になるとロープウエーは運行を止めて乗客を避難させる。運行する箱根ロープウェイでは「大涌谷駅には高精度の地震計がある。地震や地殻変動を監視する県の温泉地学研究所からも、異常があれば連絡をもらえる」と話す。

 ただ、不意打ちへの備えも必要だ。「シェルターなどは一社だけで対応できない。自治体などとの連携が長引くなら、ヘルメットを備えるなどの対策を自前で考えていく」という。

 御嶽山や富士山とは違い、ほとんど交通機関で移動できるため、火山に登るという感覚は薄い。他の山とは違う難しさがある。

伊豆東部火山群

 静岡県の伊豆東部火山群は特別な火山だ。普通は5段階の噴火警戒レベルが3段階しかない。

 レベルは状況に応じて1(平常)、2(火口周辺規制)、3(入山規制)、4(避難準備)、5(避難)と上がる。だが、伊豆東部火山群では2と3がない。活動が始まるとレベルが1から4に跳ね上がる。異常を捉えるとすぐに避難準備に入るのだ。

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伊東市の大室山=本社ヘリから

 この火山群は一度の噴火で活動を終える「単成火山」の集まり。噴火は常に新しい場所で起こる。静岡県伊東市は、その火山群のただ中にある。大室山や一碧湖(いっぺきこ)など、市内の観光名所は過去の噴火の跡だ。どこに火口ができるか分からないので、レベル2や3は設定できず、避難準備するしかないのだ。

 大きな噴火はおよそ2000年に1度程度で、最新は1989年に起きた。群発地震が起きて警戒が続く中、伊東港の約3キロ沖で海底噴火した。伊東市の沖合では78年以来、約50回の群発地震が起きている。前回は運がよかったが、次は市役所を含む市街地の可能性もある。

 万が一のとき、どう逃げるか。市では住民の避難計画づくりを進める。防災訓練で問題点を洗い出して最終案をまとめたが、御嶽山の噴火を受けて観光客も含めた計画に変更した。

 「群発地震のデータが豊富なので、前兆を捉えずに噴火する可能性は極めて低い、と気象庁から説明を受けている」と同市危機対策課の村上靖課長は説明する。前兆が出れば観光客はほとんどいなくなる、と市では考える。計画は本年度中に出来上がる予定だ。

中日新聞 CHUNICHI WEB