トップ > 中日スポーツ > スポーツ > 紙面から一覧 > 記事

ここから本文

【スポーツ】

[レスリング]現役引退表明の吉田、涙なしの“やりきった”会見

2019年1月11日 紙面から

引退会見を終え、花束を手に引き揚げる吉田沙保里=東京都内のホテルで(松崎浩一撮影)

写真

 レスリング女子で五輪3連覇を果たし、8日に現役引退を表明した吉田沙保里(36)=至学館大職=が10日、東京都内で引退会見。「レスリングはもうすべてやり尽くした」と決断に至った理由を説明した。今後はコーチとして東京五輪を目指す後輩を支える。絶対的な強さと、リオデジャネイロ五輪の敗戦の両方を財産として、次代の金メダリストを育て上げる。

 最後まで涙は見せなかった。純白のジャケットに身を包んだ吉田はテレビカメラ28台、200人近くの報道陣を終始真っすぐ見据えた。「日々迷いながらここまできた。自分自身と向き合い、引退を決断した。体力的には『本気になったら』という思いはあったけど、気持ちの部分が追いつかなかった」。リオ五輪後2年以上を経ての引退の理由は体力的な衰えよりも、モチベーションの問題だと明かした。

 葛藤はあった。2014年に死去した父の栄勝(えいかつ)さんからは「勝って終わるのが大事だよ」と教えられてきた。しかも20年は日本開催の東京五輪。「頑張らないといけないのかな、頑張ろうかなとすごく迷った」と言う。

 最終的には自分の心に問い掛けて結論を出した。至学館大で吉田の教えを受ける奥野春菜、向田真優ら若手の台頭も決断を後押しした。「父も『よく頑張った』と天国から言ってくれていると思う」と爽やかに語る。長年の戦友・伊調馨は昨年12月の全日本選手権で復活優勝したが「自分は自分」。決断が鈍ることはなかった。

 10年以上にわたって世界トップを独占し「霊長類最強女子」と称された。栄光の勝利には事欠かない。そんな吉田が最も印象深いと振り返ったのが、決勝で敗れラストマッチとなったリオ五輪だった。

 「負けた人はこういう気持ちだったんだと知った。こうやって戦う仲間がいたから頑張ってこれたんだと」。金メダルより、人間として成長させてくれた銀メダルに価値を見出した。アスリートとして、人として、誰からも愛された吉田らしい選び方だ。

 今後はリオ五輪後から兼任してきた全日本女子のコーチを続ける。全日本選手権では至学館大の選手のセコンドについており、セコンドとして金メダル獲得を支援する役割も期待される。「東京五輪に向けてコーチも選手も頑張っている。私は特に精神的な支えになれたら。コーチとしては経験が全然ない。迷惑かけない程度に協力できれば」。控えめながらセコンドに意欲を示した。

 会見の最後に母の幸代(ゆきよ)さん(64)から花束を手渡され、肩の荷を下ろしたように表情を緩めた。「レスリング一筋でやってきた。女性としての幸せは絶対つかみたい」と吉田。結婚の予定は「ない」と言う。最強の看板を下ろし、レスリング以外での「幸せ」も追求していく。 (木村尚公)

◆吉田沙保里に聞く 昨年12月の天皇杯見て心決まった

 −いつ引退を決断

 吉田沙保里「(2016年)リオデジャネイロ五輪が銀メダルに終わり、(20年)東京五輪に出たい思いもあった。すごく迷ったけど、若い選手が世界で活躍する姿を見て、バトンタッチしてもいいのかなと。(昨年)12月の天皇杯(全日本選手権)を見て心が決まった」

 −引退を最初に伝えた人は

 「最初に伝えたのは母です」

 −伊調馨は東京五輪を目指す

 「自分自身はやりきった思いが強かったので、心は動かなかった。伊調選手は素晴らしい選手。東京五輪を目指すと聞いたときは、すごいなと率直に思った」

 −一番印象に残っているメダルは

 「リオで初めて2番の表彰台に上ったときに、負けた人はこういう気持ちなんだなと感じた。競い合う仲間がいたから頑張ってこられたと、負けて知ることができた。リオの銀メダルが一番成長させてくれた」

 −特に影響を受けたアスリートは

 「柔道の谷亮子選手に憧れて、五輪で金メダルを取りたいと夢を持った」

 −レスリングは昨年、パワハラ問題に揺れた

 「世界で活躍できる選手に育ててくれた栄(和人)監督と、ともに頑張ってきた仲間がああいう状況になったことはショックだった。東京五輪に向け、一つになって頑張っていかないと」

 −競技生活で大事にしてきた言葉は

 「大事にしてきた言葉は『夢追い人』。夢を追う人でありたい」

 −次の夢は

 「レスリング以外のこともやっていきたい。笑顔でいることが好きだから、キャスターよりバラエティー番組が向いているかな。女性としての幸せは絶対つかみたい。東京五輪を盛り上げていけたらなという思いも強い」

<吉田沙保里(よしだ・さおり)> 1982(昭和57)年10月5日生まれ、三重県出身の36歳。157センチ。3歳で競技を始め、三重・久居高から中京女大(現至学館大)で活躍。2004年アテネ、08年北京、12年ロンドンで五輪3連覇を達成し、16年リオデジャネイロ五輪は銀メダル。世界選手権では02年大会に55キロ級で初優勝し、15年まで53キロ級と合わせて13連覇を達成。12年に五輪、世界選手権を合わせ、史上初の13大会連続「世界一」でギネス世界記録に認定され国民栄誉賞を受賞。01〜08年にかけ公式戦119連勝をマークした。

 

この記事を印刷する

PR情報

閉じる
中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日スポーツ 東京中日スポーツ 中日スポーツ購読案内 東京中日スポーツ購読案内 中日スポーツ購読案内 東京中日スポーツ購読案内 中日新聞フォトサービス 東京中日スポーツ