5月14日

開幕あと1カ月 西野J、試される再建

スペイン1部リーグのヘタフェ−ジローナ戦を視察する日本代表の西野監督=4月、ヘタフェで(共同)

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 サッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会の開幕が、1カ月後に迫った。監督交代に踏み切った日本代表は、再建を託された西野朗監督の下で1次リーグに挑む。 

 W杯開幕を66日後に控えた4月9日、日本サッカー界に衝撃が走った。アジア予選を勝ち抜いて本大会出場を決めたハリルホジッチ監督が解任され、技術委員長だった西野朗氏が後任に就いた。岡田武史氏以来、W杯で指揮を執る日本人は2人目。重責を背負った新監督は「この事態で、精いっぱいチームづくりを進めてロシアに行く覚悟だ」と腹をくくる。

 西野監督は前任者が強く求めた1対1の強さや縦へのスピードの重要性は認めつつ「個人のプレーには制限をかけたくない」と話す。相手に応じた受動的役割で選手を縛るのでなく「グループでの連係や連動」を重視し、自由で能動的なプレーも引き出す考え。ただ、時間は限られる。

 本来なら、一刻も早く選手を招集したいはずだ。しかし、国内組には5月下旬の合宿前に3日間の休養を与えると明言した。ハリルホジッチ監督が「狂ったように練習する」と息巻いていたのとは対照的。低調だったチームの復調には、心身ともリフレッシュさせる時間が必要とみる。急がば回れとばかりに、内心の焦りを感じさせない。

 ブラジルを破った1996年のアトランタ五輪で、西野監督の下でプレーした川口能活は「印象に残っているのは西野さんの表情が変わらないこと。あれが選手に落ち着きを与えた。ぶれずにチームをコントロールできる方だった」と振り返る。

 黄金時代を築いたG大阪での監督を知る橋本英郎は「休みを与えるのは、メンタルを最優先で考えているから。戦術より、そっちが崩れているという思いが強いのでは」と推測した。

 突貫作業にはなるが、監督は「選手が本来のプレーを素直に出せば、間違いなく日本はいい形で融合して実力以上の力を出せる」と立て直しに自信を示す。

 肝心なのは、選手の奮起だろう。清武弘嗣は「この時期に監督が代わり、今まで以上に選手一人一人が高い意識と責任感を持たないと。何よりW杯で結果を出すことが大事」と強調した。

 23人の本大会メンバーは間もなく決定する。ロシアでいかなる結果が待ち受けようと、まずはコロンビアとの初戦に全力でぶつかるのみだ。

10年南アフリカ大会のカメルーン戦で指示を出す岡田監督。98年フランス大会のメンバー選考では衝撃が広がった=共同

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◆メンバー発表衝撃の歴史も

 主力の意外な落選に、サプライズ選出−。夢舞台に向けた選手や監督の思いが交錯するW杯メンバー発表は、数々のドラマを生んできた。

 日本が初出場した1998年フランス大会はセンセーショナルだった。岡田監督は直前キャンプ地のニヨン(スイス)に登録メンバーより3人多い25人を連れて行き、記者会見で「外れるのは市川、カズ、三浦カズ、それから北沢」と発表。第一人者として引っ張ってきたスターの三浦知良(V川崎)を外す厳しい決断に衝撃が広がった。

 2006年ドイツ大会では、実績重視の方針を明言していたジーコ監督がW杯予選出場のなかった巻誠一郎(千葉)を選出して驚かせた。それまでFWの中心として活躍していた久保竜彦(横浜M)は腰やひざに故障を抱え、コンディション面に不安があることが落選の理由となった。

 16強入りを果たした2大会には、精神的支柱としてベテランをチームに加えたという共通項がある。02年日韓大会はトルシエ監督が若手有望株だった中村俊輔(横浜M)を外す一方、中山雅史(磐田)と秋田豊(鹿島)を呼んだ。10年南アフリカ大会では負傷で長期離脱していたGK川口能活(磐田)が4度目のW杯代表入りを果たし、控えの立場ながら岡田監督から主将の大役を任された。

 14年ブラジル大会はザッケローニ監督が攻撃の活性化を狙い、就任後たった1度しか起用していなかった大久保嘉人(川崎)を招集した。「日本代表になれ」と遺言に記した父克博さんの一周忌と発表が重なる巡り合わせも話題を呼んだ。 (所属は当時)

カメルーン戦で、決勝点を決めて喜ぶ本田(18)ら日本イレブン=2010年6月、ブルームフォンテーンで(共同)

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◆南ア大会の遺産、生かせるか

 日本はW杯直前に不振から立ち直った経験がある。2010年南アフリカ大会。当時の岡田武史監督は「今より俺の時の方がたたかれた」という苦境を脱し、海外のW杯で初の16強入りに導いた。8年前から主力の長友佑都は「今は10年大会に似ている。危機感があれば、状況を逆転できる」と再現を狙う。

 当時、日本は本大会前の親善試合で4連敗。韓国との壮行試合で完敗した岡田監督が、本番まで1カ月を切って進退を伺う事態に発展した。

 変貌は直前合宿地のスイスのザースフェーに入ってから。選手ミーティングがきっかけだった。独りよがりな主張も多く、議論はかみ合わなかったが「言いたいことを言ったからにはやる」という覚悟が芽生えた。田中マルクス闘莉王の「俺たちは下手くそ。泥くさくやらないと勝てない」との呼びかけも響き、活気が戻った。

 岡田監督も腹を据えた。前から追う戦術を捨て、自陣に引いて本田圭佑を起点にした逆襲狙いに転換。これが不格好でも勝ちたい選手の思いとマッチした。高地対策の成功も重なり、カメルーンとのW杯初戦を制して波に乗った。

 控えGK川口能活のまとめ役としての貢献もあった。主力から外れた中村俊輔が大会中に誕生日を迎えると、部屋を訪ねて話し相手になるなど雰囲気づくりに腐心。川口は「出られない選手も日本のために戦っていた」と述懐する。

 当時の日本サッカー協会強化担当技術委員長でJリーグの原博実副理事長は「2週間でチームをつくり変えたと言われるが、岡田監督の継続的な取り組みがあったからこそ。新監督にできるか」と楽観を戒める。だが、結果はふたを開けるまで分からない。それを学んだのが南アフリカのレガシー(遺産)だ。

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◆18日→31日 2段階で選出

 W杯日本代表は2段階で絞り込まれる。ガーナとの国際親善試合(30日・日産スタジアム)のメンバーが18日に決まり、21日から国内合宿を開始する。ガーナ戦で最終的な見極めが行われ、翌31日にW杯の代表が発表される予定。

 その後、事前キャンプ地のオーストリアのインスブルックで最後の仕上げに取りかかる。練習会場は郊外のゼーフェルト。ロシアとの時差やアクセス、気候、施設面などを考慮して決められた。

 大会前の6月8日(日本時間9日)にスイスのルガノでW杯出場国のスイスと対戦し、12日にはインスブルックでパラグアイと戦う。ベースキャンプ地のロシア中部カザンでコンディションを整え、19日の1次リーグ初戦に臨む。

◆先送りはしない意向

 日本代表の西野監督は13日、さいたま市の埼玉スタジアムで行われたJ1視察後に取材に応じ、W杯代表メンバー23人について当初予定の31日に発表する考えを示した。

 前日の12日には、31日以降に先送りする可能性を示唆。ただ、この日、改めて問われると「最終は31日。基本的にはそう考えている」と語った。

 14日に締め切られるW杯の予備登録メンバー35人は、これまで代表入りした選手を中心に選ぶ見通し。

◆人も国も感動のドラマ 運動部長・谷野哲郎

 W杯はテレビ中継で延べ300億人超が視聴するといわれる世界最大の「スポーツの祭典」。今回も世界中にさまざまな驚きや感動をもたらしてくれることだろう。

 そこには人のドラマがある。ブラジルの新星、21歳のFWガブリエルジェズスは今大会のシンデレラボーイとして話題を呼ぶ。母国開催だった前回大会はまだ17歳の少年。アルバイトとして会場周辺の道路にペンキを塗っていた。

 あれから4年。今やブラジル代表の最前線で攻撃の中心を担い、予選はチーム最多の7得点を挙げた。昨年1月にイングランド・プレミアリーグのマンチェスター・シティーに移籍。急成長を遂げた若きストライカーはポジショニングと技術に優れ、ネイマールとの好連係が期待される。

 チームのドラマもある。今回初出場を決めた北欧の島国、アイスランド。人口は約33万人で東京都新宿区とほぼ同じ。これまでW杯に出場した国・地域で最も少ない。

 守備を固めてカウンターで点を取る。派手さはないが、しぶといサッカーをする。アイスランドが戦うD組はメッシのアルゼンチン、モドリッチのクロアチアといった強敵ぞろい。新興国がどこまで立ち向かえるか、注目だ。

 今回は既にイタリア、オランダといったW杯常連国が予選で敗退する番狂わせが起きている。本大会ではどのような波乱が待ち受けているのか。開幕が今から楽しみだ。

中日新聞 東京新聞

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