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文壇に存在感 なぜ富山から 芥川賞候補に高山さん

富山県ゆかりの作家を紹介する展示コーナー=富山市舟橋南町の高志の国文学館で(山中正義撮影)

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自然や文化 素材に魅力

 文壇で富山ゆかりの作家の活躍が目立つ。十六日に選考会が開かれる第百六十回芥川賞の候補作に、富山市生まれの高山羽根子さん(43)の「居た場所」が選ばれた。小学生時代を富山市内で過ごした恩田陸さん(54)が二〇一七年、「蜜蜂と遠雷」で直木賞と本屋大賞をダブル受賞したことは記憶に新しい。優れた作家や作品が生まれるのは、なぜ−。(山中正義、山本真士)

 富山と言えば雄大な自然。その代表格の立山・黒部を扱った作品は数多い。特に名高いのは「劔岳 点の記」や「高熱隧道(ずいどう)」だ。富山ゆかりの文学を研究する「富山文学の会」代表の高熊哲也さん(56)は「立山・黒部は『自然と人間』という主題を扱うには大きく、面白い」と指摘。県外の作家がよく扱う状況を踏まえ「よそから見ても興味が持てる素材だ」と胸を張る。

 「山の自然」のほか「野の自然」も題材になってきた。芥川賞の選考委員を務める宮本輝さん(71)は、同賞の受賞作「螢川(ほたるがわ)」で、少年時代を過ごした富山市の風景を描いた。ローカル文芸同人誌「ペン」を主宰し、富山市での暮らしを小説にしている神通明美さん(77)は「立山は壮大。川はきれい。海はその時々で表情を変える。年齢を重ね、ますます富山の自然を描きたいと思う」と魅力を語る。

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 文化も特徴的だ。射水市大島絵本館長の立野幸雄さん(68)は「県の東西で雑煮の餅の形が異なるように、関西と関東の文化が入り交じっている」と指摘する。富山市八尾地域のおわら風の盆は「風の盆恋歌」で扱われ、全国から年に二十万人超の観光客を呼び込む。

 立野さんはさらに、立山を中心とする山岳信仰や、一向宗(浄土真宗)の影響も付け加える。米アカデミー賞で外国語映画賞に輝いた映画「おくりびと」の原点「納棺夫日記」は、仏教の言葉が引用されている。

 では、豊かな自然や文化が書き手を育ててきたかというと、話はそれほど単純ではないようだ。立野さんは「文学をやる人は、周りからの冷遇など何か満たされないものがあり、文学はそれをいやすためにあった」と指摘する。

つらい体験題材 少なくない名作

 富山でのつらい経験から名作が生まれた例は少なくない。芥川賞作家の柏原兵三さんは自伝的小説「長い道」で、入善町に疎開した少年の苦渋に満ちた生活を記した。同じく芥川賞作家の堀田善衛さんは「鶴のいた庭」で、高岡市伏木の生家をモデルに、没落していく廻船(かいせん)問屋を描いた。

 最近では、富山市出身の山内マリコさんが「ここは退屈迎えに来て」で、故郷に満たされぬ思いを抱える女性たちの物語を紡いだ。

 一方、県外に出た後、作品や実生活で故郷と距離を置く作家もいる。富山市出身で直木賞作家の源氏鶏太さんは、高度成長期にサラリーマン小説で一時代を築いたが、代表作では富山をあまり描かなかった。高熊さんは「社会や人間への問題意識から県外に出た人は、地元に引っかかりがある。故郷に錦を飾るという考えはない」と分析する。

 今後、県出身の作家に期待されるのは何か。郷土文学の振興に力を入れる立野さんは、最近は都会の雰囲気を出した文学が多いと指摘。「文学の原点は生まれ育った故郷。もっと富山の豊かな自然や文化などの風土を生かし、原点をにおわせるような作品を生み出してほしい」と期待する。

 

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