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立山でクマに襲われ負傷 教訓は 写真家・高橋さんに聞く

クマに襲われた当時の状況を語る高橋敬市さん=富山県立山町で(柘原由紀撮影)

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 立山を中心に活動する写真家の高橋敬市さん(67)=富山県立山町芦峅寺=は今年六月、立山黒部アルペンルートの美女平駅(同町、標高九七七メートル)付近でツキノワグマに襲われた。予防策を怠った事故を「うかつだった。自然と人間の間には一線がある」と振り返る。クマに襲われないためにはどうすればいいのか−。(柘原由紀、酒井翔平)

自然と人間には一線がある

 新緑の季節を迎えた六月五日。高橋さんはいつも通り立山の撮影に出掛けた。立山駅からケーブルカーとバスに乗り、称名滝が見える展望台「滝見台」で下車。午前九時半ごろから撮影を始めた。昼すぎ、美女平駅近くまで下り、途中で近道となるやぶの中へ足を踏み入れた。駅は見える距離。「もうすぐ着くだろう」。そんなときだった。

 小高い尾根を登ると、四メートルほど先に小ぶりな黒いツキノワグマがいた。襲われたのは、次の瞬間。クマはあおむけに倒れた高橋さんの顔をひっかき、かみついた。出来事は体感でわずか五秒ほど。「あっという間だった」。クマは高橋さんを襲うと去っていった。

 意識はあったが痛みは感じなかった。携帯電話で助けを求めようとしたが、画面には顔から出た血がしたたり落ち、気も動転していてうまく使えない。「もうダメだ。歩こう」。やぶを出て道路を五分ほど歩き、建設会社の事務所に駆け込んだ。午後一時十分ごろ、男性従業員が一一九番。防災ヘリで大学病院へ運ばれた。首にかけたカメラは血で真っ赤になっていた。

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 前歯が三本折れ、右の額に九センチの傷ができるなど顔に重傷を負った。二度の手術を受け、退院できたのは二十日後。傷口はふさがったが、顔の右半分にはまひが残る。事故を思い出す強烈なフラッシュバックはようやく収まったが、今も夜に眠れないときがある。

 四十年間も立山に通っているが、クマと遭遇したのは初めて。

 これまでクマの情報は何度も耳に入っていたが、「逆にそれに慣れてしまっていた」。事故当時、クマよけの鈴もラジオも持っていなかった。美女平駅まで下りる山道は地形が複雑で見通しも悪い。「悪いのは私。うかつだった」と後悔する。

 クマだけではなく、落石や雪崩、滑落など山にはさまざまな危険が潜む。今後も北陸の自然をテーマに撮影を続けていく気持ちは変わらないが、山の恐ろしさを思い知った。「一番怖いのは慣れや気の緩み。山は何が起きるか分からないということを今回、嫌というほど経験した」

目撃情報増える秋へ

鈴など対策 忘れずに

 九〜十一月はクマの目撃や痕跡の情報が多く寄せられる時期。生態に詳しい「富山県自然博物館ねいの里」(富山市)の間宮寿頼係長は「山林などの生息域に立ち入る際には、クマがいることを前提に準備する必要がある」と指摘する。

 必須なのは鈴やラジオなど音が出る物。ただ、子連れの場合は音を鳴らしても襲われることがあり、市販の撃退用スプレーやヘルメットも必要という。

 交尾期や餌が取りにくい端境期の夏は、行動範囲が広がる。河川敷のやぶや河畔林など、山を下りて低標高地域に出没することもある。さらにブナやミズナラが凶作になると、平野部まで出る場合も。過去には民家周辺のカキの実を食べにきたクマも確認された。間宮さんは「餌となる誘引物は早めに除去してほしい。取り除く順番は家の近くから周辺に広げていくのが望ましい」と呼び掛ける。

 県自然保護課によると、二〇〇四年九月〜今年七月の県内のクマによる人身被害は五十五件六十八人で、最多は全国的に大量出没した〇四年の十六件二十四人。死者は二人で、〇六年には入善町の住宅街で男性=当時(71)=が襲われて亡くなった。一一年以降は人身被害がない年もあったが、昨年は四人、今年はこれまで一人となっている。

 

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