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特報とやま

イ病公害病認定50年(下) 教育・研究

【左】イタイイタイ病の資料に目を通す柳田和文教諭=富山大五福キャンパスで【右】イ病の病理研究に関わる南坂尚医師=富山大杉谷キャンパスで(いずれも山本真士撮影)

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過去知り 未来へ生かす

 イタイイタイ病(イ病)を知る人たちの高齢化が進む中、記憶や教訓の継承は、公害病認定後に生まれた世代に託されつつある。

 家庭訪問で出されたお茶やコーヒーには手をつけない。それが最善だと、富山市宮野小学校の柳田和文教諭(36)は考えていた。全てを口にしたらトイレに行きたくなるし、かといって一部の教え子の家だけで飲むわけにはいかないからだ。

 だから印象的だった。七年前の赴任直後。家庭訪問前の職員会議で、校長はこう呼び掛けた。「出された飲み物に必ず手をつけてください」。理由が続いた。「ここはイタイイタイ病の被害地域。水に敏感です。手をつけなければ『水の安全性を疑っているのでは』と思われてしまいます」

 地域の歴史の陰影に、初めて気付いた瞬間だった。同時に、授業の題材になり得るテーマだと感じた。

 六年生の担任になった翌年、イ病の歴史を総合学習で扱った。教え子が成果を発表すると、思わぬ感想が寄せられた。「被害地域と知らなかった」。宮野小を卒業した保護者だった。

 イ病には偏見や風評を恐れる住民にタブー視された過去があった。「学校や家庭で教わらなかったのだろう」。今、授業で扱う必要性を確信した。裁判に携わった患者家族や治療に尽くした医師に会った。神岡鉱山へも行った。その過程で気付いた。「イタイイタイ病は悲しい歴史だけではない。苦難を乗り越えた先人の努力の歴史でもある」

 経験頼みの指導に限界を感じ、今春から富山大の教職大学院に通っている。研究の最終目標の一つは富山県内では前例が少ないイ病の授業のモデルづくりだ。

 「先人の姿を知り、正義や環境を考え、郷土愛を育む。イタイイタイ病の学習には意義がある。自分の生き方を考えることにつながる」。教え子たちのために集めた資料をかばんに忍ばせ、キャンパスで学ぶ。

 医療の現場でも継承が進む。富山大病院(富山市)の南坂尚医師(32)は、学生時代からイ病の研究に携わってきた。その縁で、イ病患者の体の病理標本を集約、保管する富山大の研究室に所属している。

 富山大の医学生だった八年前、教授の勧めで、イ病の勉強会を同級生らとつくった。学内の標本を調べ、発症の過程を体系化。一線の専門家が集まる日本病理学会から表彰された。「研究に熱中する面白さや評価される喜びを感じました」

 臨床研修から戻ってからは、最新の解析機器を求めて東北へたびたび出張。患者の体でカドミウムの濃度が最も高い肝臓について、新たなデータを集めた。

 国内でイ病はまれな病気になったが、関心は持ち続けている。「イタイイタイ病を知ることは、人体を知ること」。医学界では、研究の成果が世界中で共有される仕組みが整っている。「途上国では今後も似た病気が起こり得る。知見を得れば、生かしてもらえる」

 最近他界したイ病患者の病理解剖を担当し、研究の経験が役立った。別の病気を診断していてもイ病の症例が参考になる例は多い。「富山にいる限り、イタイイタイ病に関わり続けます」。病院と研究室を行き来し、研さんを積む。 (山本真士)

 

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