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イ病公害病認定50年(上) 語る・巡る

イタイイタイ病の歴史を伝える展示に見入る来館者たち=富山市の富山県立イタイイタイ病資料館で

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負の歴史 観光で触れて

 富山県の神通川流域で発生したイタイイタイ病(イ病)は八日、国の公害病認定から五十年を迎える。被害を伝える患者や遺族らは高齢化し、教訓をどう残すかが課題として迫る。 (山中正義)

 三月初め、富山市の県立イタイイタイ病資料館に語り部の高木良信さん(87)の姿があった。母をイ病で亡くした。公害裁判にも関わった。生前の母との会話を来館者に語り掛けた。

 「お母ちゃん、解剖してくれんかな」。主治医に頼まれ、母に伝えた。母は「こんな痛い病気にどうしたらなるか調べて。切っても刻んでもいい」−。

 語り部は患者の子どもや孫ら六十〜九十代の八人。高木さんは語り部の減少を案じる。「動ける限りは話す」と意気込むが、「映像に残してもらうしかないかな」とも。

 同市の市民団体「イタイイタイ病を語り継ぐ会」も勉強会や朗読劇を開くが、会員約百人の多くは六十代。向井嘉之代表(74)は「いかに若者に関心を持ってもらうか。伝える努力と工夫が必要」と課題を示す。

 先細る“語る”手段を補うように、現場を“巡る”方法が提案されている。イ病のような「負の歴史」を経験した場所を訪れる観光は「ダークツーリズム」と呼ばれ、世界各地にある。福島県でも東日本大震災後に、ガイドと原発周辺を巡る旅が始まった。

 同じ四大公害病の水俣病が発生した熊本県水俣市も先例の一つ。地元が公害の歴史を地域固有の資源ととらえ、体験学習プランを作り、教育・修学旅行を誘致している。参加者は、水俣病資料館や語り部から教訓を学習。リサイクル工場を訪問して環境都市に再生する姿を体感し、豊かな自然にも触れる。

 一般社団法人・水俣病を語り継ぐ会の吉永利夫理事(67)は「水俣には公害の暗い歴史だけでなく、きれいな海など資源がある」と強調し、「そうした地域の『光』と『影』を堂々と伝えることが観光」と訴える。

 こうした取り組みの成果もあり、水俣病資料館の昨年度の来館者は四万一千二百五十人で約三割は県外から。一方のイ病資料館は、二万八千三百十三人で県外は一割程度にとどまる。

 富山大人文学部の鈴木晃志郎准教授(46)は「暗いものを見て明るいものに気付くのがダークツーリズム。イ病も観光資源になり得る」と提案する。

 例えば、資料館だけでなく、カドミウムに汚染された土壌の復元完成の記念碑を訪れたり、工業化した富山を体感するために工場見学をしたり。鈴木准教授はその際のガイドが大切といい、「教訓が今でも通用し、普遍性のある話として理解してもらう必要がある」と説明する。

 イ病を語り継ぐ会は、ダークツーリズムの実現を検討し始めた。資料館以外の関連場所を選び、マップ作りを目指している。

 向井代表は「被害地でも(イ病への)関心が薄れている。これからは市民が伝えていく時代。意識して伝えることに取り組まないといけない」。

 

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