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NPO通信

富山型デイサービス「にぎやか」(5) 大切な命を育む幸せ

赤ちゃんのために、さをり織りで布を織る彼女=富山市のにぎやかで

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 「もうすぐ生まれてくる赤ちゃんのために、さをり織りで織った布でおくるみを作ってあげたい」。十九歳の時からにぎやかに通っている子が臨月を迎えている。

 彼女が十九歳のとき、にぎやかの玄関に立った姿をはっきりと覚えている。太った体にダボダボのTシャツ、その袖から見える腕には無数のリストカットの傷があった。傍らに寄り添っていた母親の疲れ切った表情から「見捨てるわけにはいかない」。瞬間そう感じた。

 「どうして来られたのですか?」と理由を聞くまでもなかった。どこにも頼るところがなくなったから、看板も何もない、住宅街の一軒家のにぎやかにまでたどり着いたのだろう。名前も知らぬ親子だったが、「よう来られたね。入られ!」とすぐに招き入れていた。

 「どうして自分で自分の腕を切るのか?」。理解できないが、抱え切れぬほどの苦悩を察するしかなかった。腕の傷をさすりながら、初めて会う彼女をいとおしく思った。それから十四年、にぎやかで過ごした日々のなかで何度となく彼女は私たちが困るような問題行動を繰り返した。

 そんなときに彼女が放った言葉「もうここに来たらだめって言うんでしょ?」。過去に排除されてきた経験があったのかもしれない。しかし、私たちは決して見捨てることはしなかった。その体験の繰り返しが彼女の心に少しずつ変化を生んだ。

 美しい花を美しいとも思えなかった。おいしいごはんも、ただの喉を通る異物でしかなかった。自分は生きる価値もない、自身も地球上の異物としか思えなかったのかもしれない。そんな彼女が人を愛し、人を信じ、自分のおなかの中に宿る命を大切に守り育み、母親になろうとしている。

 彼女は生まれた子供とともに、にぎやかに里帰りすることを決めた。自分の孫ではないが、私は「おばあちゃん」になるつもりで、休業していた「にぎやか」の再開を決めた。

 振り返れば、彼女のことで悩み苦労したこともあったが、もうすぐ生まれてくる大切な命を彼女とともに育む幸せが待っている。それが今、私の人生においても大きな喜びと励みになっている。今はただ、彼女に感謝の気持ちでいっぱいだ。 (理事長 阪井由佳子)

 

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