トップ > 静岡 > 地域特集 > 静岡連載 > 記事一覧 > 2018年の記事一覧 > 記事

ここから本文

静岡連載

再審の今 6・11 袴田巌さん高裁判断を前に(中)

◆証拠開示

2017年11月に来日した際のゴビンダ・プラサド・マイナリさんと妻ラダさんの写真を見せる客野美喜子さん。今でも連絡を取り合っている=東京都内で

写真

 片手に新聞、片手には鳴りやまない携帯電話。二〇一一年七月二十一日昼、「無実のゴビンダさんを支える会」の事務局長だった客野(きゃくの)美喜子さん(66)は横浜刑務所に急いだ。門の前は既に報道陣が詰めかけていた。

 新聞には黒地白抜きの見出しで「東電OL殺害 再審可能性」。面会室に現れたゴビンダ・プラサド・マイナリさん(51)は内容を聞き、歓喜の表情で拍手した。客野さんが初めて見る笑顔だった。

 当時、東京高裁で「東電女性社員殺害事件」の再審請求審が七年目を迎えていた。検察官に全証拠を開示する義務はなく、弁護団は苦戦を強いられていた。しかし、証拠は検察側だけのものなのか。「現場に残された証拠にDNA型鑑定をすれば、別人の型が出るはずだ」。弁護団は高裁に対し、検察側に証拠開示を命じるよう再三訴えてきた。

 一審無罪から逆転の無期懲役とした〇〇年の確定判決は、現場アパートのトイレに残された体液のDNA型がマイナリさんと一致したことを「犯人が被害者と接触後に投棄した可能性が高い」とした。

 その認定を覆したのが、再審請求審でようやく検察側が開示した、被害者の体内に残された体液だった。客野さんが握りしめた新聞は、DNA型鑑定の結果、マイナリさんと別の男性の型が出たと伝えていた。

 その型は、現場にあった体毛の型とも一致。高裁は「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」と判断し、「第三者が真犯人との疑いが否定できない」として一二年に再審開始を決定した。

 高裁が、証拠開示命令を求める弁護側の要望に初めて応じたのは〇九年十一月。弁護団の石田省三郎弁護士(71)によると、背景には冤罪(えんざい)の足利事件があった。

 その半年前、足利事件で女児を殺害・遺棄した犯人とされた菅家(すがや)利和さん(71)が、証拠のDNA型の不一致が判明して釈放された。石田弁護士は「高裁も足利事件で鑑定の重要性を理解したから、その後の証拠開示につながった」と話す。

 マイナリさんの再審開始決定後、検察の異議申し立ては二カ月弱で棄却され一二年十一月に無罪が確定。開始決定から四年を経ても再審が開かれない袴田巌さん(82)の事件と対照的だ。

 だが客野さんは「もっと早く無罪になった」と憤る。日本の刑事裁判で検察が出すのは、有罪の立証に役立つ「最良の証拠」であり、不利な証拠を出す必要がない。この最良証拠主義について、客野さんは「検察が被告に有利な証拠を出さないのは合法でも、冤罪被害者にとっては犯罪だ」と訴える。

 一六年の改正刑事訴訟法は、公判前整理手続きで弁護側が求めれば、検察側に証拠リストを見せる義務を負わせ、再審請求審での開示は検討課題とした。石田弁護士は「リスト開示は前進だが、公益の代表者である検察官は再審でも証拠を明らかにすべきだ」と主張する。

 袴田さんの再審請求では一〇年九月以降、検察側は犯行着衣のカラー写真など約六百点を開示した。弁護側は衣類をみそ漬け実験して「写真と色が違う」と主張。再審開始決定でも新証拠として認められた。客野さんは「熊本の松橋(まつばせ)事件など近年、証拠開示が再審開始決定につながった事例が相次いでいる。袴田さんの事件も再審法制の改正に向け大きな力になるはずだ」と注目する。

 <東電女性社員殺害事件> 東京都渋谷区のアパート空き室で1997年3月、東京電力の女性社員=当時(39)=の遺体が見つかり、隣のアパートに住んでいたネパール国籍の飲食店店員マイナリさんが強盗殺人容疑で逮捕、起訴された。マイナリさんは黙秘を続け、2000年4月の一審東京地裁は立証不十分で無罪としたが、同12月の二審東京高裁は無期懲役とし、最高裁で確定。05年3月に再審請求審が始まり、東京高裁は12年6月、再審開始を決定。同11月、再審公判で無罪を言い渡した。

 

この記事を印刷する

中日新聞・北陸中日新聞・日刊県民福井 読者の方は中日新聞プラスで豊富な記事を読めます。

中日新聞しずおかの記事はこちら

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索