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静岡連載

再審の今 6・11 袴田巌さん高裁判断を前に(下)

◆自白の評価

原口アヤ子さん

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 鹿児島県大崎町の郊外。草木に覆われた木造家屋に人の気配はない。数年前、国内最高齢の再審請求人原口アヤ子さん(90)が暮らしていたころ、近くに住む稲留淳子さん(60)はこの家でよく談笑した。高齢の原口さんは入院し、もう会話は難しい。時折、なまりの強い口調を思い出す。「あたいはやっちょらん」

 事件から三十九年。逮捕から一貫して関与を否定してきたが、いずれも知的障害がある夫ら三人は起訴前に犯行を認めた。「犯行をアヤ子に持ち掛けられた」という話が決め手となり、原口さんは有罪に。だが、三人は服役後に「警察の取り調べがきつく、うその自白をした」と証言を翻す。

供述心理鑑定の現状について語る鴨志田祐美弁護士=鹿児島市で

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 弁護団事務局長の鴨志田祐美弁護士(55)は「物証が何もない。殺害方法も断定されず、凶器とされたタオルすら見つかっていない。自白が確定判決の唯一のよりどころ」と裁判の構図を語る。弁護団は虚偽自白だったことを裏付けるため、第二次再審請求の新証拠として「供述心理鑑定」を提出した。

 ただ、過去の再審請求では多くの鑑定人が苦汁をなめていた。袴田巌さん(82)の第一次再審請求もそう。自白の変遷を「犯行内容を知らない表れ」と分析した鑑定書が東京高裁に提出されたが、「(供述心理は)裁判官の自由な判断に委ねられるべき領域」とされ、「そもそも証拠性に疑問がある」と断じられた。

 心理学者が供述の過程をたどり、虚偽自白がないか調べる供述心理鑑定。手法はさまざまだ。大崎事件の鑑定では、自白の語り口や質問への反応から、実際に体験した記憶かどうかを判断する手法が採用された。

 例えば、公判で「どのように殺そうと思った。語り合いはしたか」と問われた夫は、沈黙をはさみ「全然していません」と返答している。義弟も殺人の共謀を自白したものの、公判で具体的な会話を尋ねられた際には答えに窮した。

 さらに、義妹の「目撃」の鑑定にも着手。「(原口さんが)犯行を持ち掛けたのを見た」「(共犯者が)『殺してきた』と言うのを聞いた」と語ったが、義妹は犯行告白の場を見る前後にトイレに起きたり、そのまま寝たりしていた。その行動の不自然さにも注目。「共犯者も義妹も体験していない記憶を話した可能性が高い」と結論付けた。

 第三次再審請求で、鹿児島地裁は昨年六月、国内の再審請求では初めて、供述心理鑑定を「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」と認めた。再審開始を決定しただけではなく、鑑定そのものを「裁判所の供述の信用性判断に『手掛かり』を与えるもの」と評価した。

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 一方、今年三月に開始決定を維持した福岡高裁宮崎支部は、窒息死の可能性を否定した法医学鑑定を新証拠として採用した。供述心理鑑定の証拠能力は否定されたが、「裁判員裁判において一定の意義を有する」という見解は保たれた。

 鴨志田弁護士は「再審の領域に心理学者が踏み込んだ画期的な決定。鑑定の質や尋問での説明技術が向上すれば、さらに受け入れが進む可能性はある」と指摘している。再審の“開かずの扉”を開く新たな鍵になるのか。

(この連載は西田直晃、角野峻也、鈴木凜平が担当しました)

 <大崎事件> 鹿児島県大崎町の民家で1979年10月、男性=当時(42)=の変死体が見つかった。80年、鹿児島地裁は死因を窒息死と認定し、殺人と死体遺棄の罪で、義姉に当たる原口アヤ子さんに懲役10年を言い渡し、犯行を自白した原口さんの元夫と親族ら計3人も実刑とした。原口さんは最高裁まで争ったが、81年に刑が確定。確定判決では、男性の生活態度に不満を募らせ、共謀し、男性宅で首をタオルで絞めて殺害。牛小屋に遺棄したとされた。

 

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