トップ > 静岡 > 地域特集 > 静岡連載 > 記事一覧 > 2018年の記事一覧 > 記事

ここから本文

静岡連載

事件が問うもの<上> 司法のあり方

 一九六六年に旧清水市(現静岡市清水区)で一家四人が殺害された強盗殺人事件で死刑確定後、静岡地裁の再審開始決定で釈放された袴田巌さん(82)の即時抗告審で、東京高裁は早ければ三月中にも再審の可否を決める。長期化する審理、虚偽自白の疑いがある供述、「袴田さんありき」の先入観…。半世紀の歩みを顧みれば、司法、捜査機関、マスコミが抱える多くの課題が浮かび上がる。識者、冤罪(えんざい)被害者、ジャーナリストの三人に「事件が問い掛けるもの」を聞いた。

◆調べ直し長期化招く 元判事、弁護士 木谷明さん

写真

 −二〇一四年の袴田巌さんの再審開始決定で、静岡地裁は警察の「証拠の捏造(ねつぞう)の疑い」を指摘した。

 勇気ある決定。裁判所は「国家権力の行使」を評価する立場にある。予断を持たず、証拠を率直に見ることが大事。現在の浜松市天竜区で一家四人が殺害された二俣事件(一九五〇年)では、捜査に携わった警察官が内部告発し、強盗殺人罪に問われた少年に、拷問による自白の強要、供述調書の捏造があったと法廷で語った。一、二審の死刑判決を最高裁が破棄し、後に無罪が確定したが、告発した警察官は偽証の疑いで逮捕されている。国家権力とは時にそういうものだ。

 −どうして捜査機関は暴走し、裁判所は捜査機関を過信するのか。

 検察官は、高い有罪率のために「起訴した以上は有罪を勝ち取る」という感覚に陥り、裁判官も有罪だと思い込みがちだ。無罪判決を出しても、控訴審でひっくり返ると、「無罪病」のレッテルを貼られ成績が下がる。有罪視に抵抗していた人も勇気を失う。

 「裁判官の独立」が保障されているし、各自が正義の実現という原点を思い出してほしい。ただし、処遇面の問題はある。無罪判決や再審開始決定を出すと、形式上は栄転であっても、裁判の現場に出してもらえないという例がある。人事行政を公正にやるべきだ。

 −再審制度についてどう考えているか。

 最高裁まで審理がなされた場合の「確定判決神話」は根強い。再審開始の判断基準となる「白鳥決定」が浸透しておらず、再審請求審での証拠の評価は極めて厳しい。審理の長期化も問題だ。上訴権は弁護側に限定するべきだ。諸外国は通常審でも検察側は上訴できないのに、日本は通常審、再審請求審、再審公判で計六回も上訴できる。

 −袴田さんの即時抗告審には約四年が費やされた。

 検察が求めた検証実験を実施し、審理に長い時間が費やされた。後に無罪が確定した東住吉事件(大阪市で九五年に女児が焼死し、殺人罪などで母親と同居男性が有罪判決)の即時抗告審も約三年半の年月がかかっている。一方、鹿児島地裁で再審開始決定が出た大崎事件(鹿児島県で七九年に男性が殺害され、殺人罪などで義姉らが有罪判決)について、福岡高裁宮崎支部は十二日に再審の可否を判断したが、こちらは検察側の即時抗告から九カ月しかたっていない。

 この違いは事実調べに時間を費やすかどうか。最高裁の判例は、控訴審、上告審は一審判決が論理則・経験則に照らして不合理な場合に限り破棄すべきだとしている。通常の審理だけではなく再審請求審にも当てはまり、本来であれば、一審の決定をごちゃごちゃ調べ直す必要はない。袴田さんの即時抗告審の検証実験は、一審で済ませておくべきもの。そうしないと、審理はどんどん長期化するばかりだ。

(聞き手・西田直晃)

 きたに・あきら 1937年12月、神奈川県平塚市生まれ。63年に判事補任官後、東京地裁、名古屋地裁判事、最高裁調査官、東京高裁部統括判事などを経て2000年5月に退官。現役中に30件を超す無罪判決を確定させた。04〜12年に法政大法科大学院教授。現在は弁護士。

 <白鳥決定> 「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則は、再審制度にも適用されるべきで、確定判決の事実認定に合理的な疑いが生じれば、再審を開始できるとした最高裁の判断。1952年1月に発生した警察官射殺事件「白鳥事件」の再審請求審で、最高裁が75年5月に示した。

 

この記事を印刷する

中日新聞・北陸中日新聞・日刊県民福井 読者の方は中日新聞プラスで豊富な記事を読めます。

中日新聞しずおかの記事はこちら

新聞購読のご案内

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索