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静岡連載

東海地震説40年 予知信仰の崩壊<中>

◆特異性「防災先進県」育む ノウハウの継承に陰り

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 東海地震想定震源域の真ん中にある掛川市。JR掛川駅から南東に車で二十分走ると茶畑と田んぼが広がる。この田園地帯にひっそりとあるコンクリート製の小屋。その下にはマンホールほどの穴が五百四十メートルも掘られ、地殻変動を計測する気象庁の「ひずみ計」が埋められている。のどかな風景とは裏腹に進められた国家プロジェクトに学者は「予知」への期待を託した。

 静岡県は国内で唯一、地震を引き起こす可能性の高いプレート境界が陸地に入り込んでいる。この地理的特徴から「静岡を震源域とする東海地震だけが直前に予知できる可能性がある」と注目された。

 地震の発生前。プレート境界では「前兆すべり」が起きるとされ、それが予知の基本的な考え方となっている。前兆すべりを観測するひずみ計は陸地にしか設置できない。静岡周辺の陸地には、ひずみ計が張り巡らされている。

■対策費2兆円

 学者にとって静岡は、貴重な観測地域に映った。予知の科学的根拠がないまま、東海地震を「特別扱い」してきた国の姿勢もまた、地理的理由によるところが大きい。気象庁は今も、二十四時間態勢で前兆現象を監視する。

のどかな風景にひっそりと立つひずみ計の観測小屋=24日、掛川市で(小沢慧一撮影)

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 特別扱いは監視態勢にとどまらない。静岡県は大規模地震対策特別措置法(大震法)の対策強化地域として、補助金などで国の手厚い恩恵を受ける。本格的な地震対策が始まった一九七九年から二〇一五年度までに計二兆二千七百八十九億円の対策費を投じ、「防災先進県」として突き進んできた。

 学校、幼稚園の耐震化率は一五年度時点で99・3%。木造住宅耐震補強も一三年時点で82・4%が済ませている。ともに全国一位の実績だ。

 「地震説をきっかけに、ハード面だけでなく、ソフト面の対策も進んだ」。元県職員として、地震対策に携わった静岡大防災総合センターの岩田孝仁教授は、熊本地震の被災地を訪れ、その思いを強くした。

■根付いた精神

 熊本地震の発生直後、被害が大きかった益城(ましき)町へ調査に出向いた岩田教授。そこで見たのは、自衛隊が提供するおにぎりを受け取るため、数百人が列をつくって並ぶ光景だった。「被災者がみんなで協力し、炊き出しをすればすぐ終わるのに」

 静岡県は、各町内会などでつくる自主防災組織の結成率がほぼ100%に達する。炊き出し訓練は防災訓練のたびにある。「静岡では自助、共助、公助の精神が県民に根付いている。これこそが四十年間の防災対策の成果だ」。岩田教授は東海地震説が提唱されてからの歳月が無駄ではなかったと強調する。

 だが、そうして育んできた防災意識の高さにも課題が見え始めた。九月一日の「防災の日」に合わせて全国で実施される総合防災訓練。一四年の参加者は八十九万人と、全国で一位の参加率だが、ピーク時の二百二十八万人(一九八二年)と比べると半数以下に激減した。

 参加者の高齢化も懸念される。「自主防災の中枢を担ってきた人が年を取り、訓練にも高齢者ばかりが目立つ」と岩田教授。「これまで培ってきたノウハウを引き継ぐため、大人が若い世代にもっと働きかけなければいけない」

 

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