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静岡連載

「ムラの生活」いいら! ゆったり人物伝<6>

◆山あいの集落に移住 濃密なのも居心地いい

 茶の段々畑に囲まれた築五十年の一軒家。農作業で留守にしていたら、山菜の天ぷらがこたつの上に置いてあった。近所のおばあさんがお裾分けをそっと置いていったらしい。

 「おいしくいただきました」

 浜松市天竜区春野町砂川(いさがわ)の宇野大介さん(36)、まどかさん(32)夫妻が笑った。

 新浜松駅から遠州鉄道とバスで一時間半。さらに停留所から七キロ歩いた山あいにある、四十世帯ほどの集落だ。皆が親戚のように互いの家を行き来する。

 大介さんは伊東市の歯科医師の次男で、まどかさんは愛知県知多市の高校教諭の次女。京都大農学部で知り合った。まどかさんの実家近くで野菜を作った時期もあるけれど、オートロックの集合住宅やコンビニが間近な暮らしはいまひとつ性に合わなかった。

 「お金さえあれば、他人と関係を持たなくても生きられてしまうから」と大介さん。昔ながらのムラの付き合いが疎まれがちな時代だが、「距離が近い者同士が親しくするのは人として自然なこと」と考える。

 そんな濃密な人間関係と豊かな自然を求め、七年前に春野に移り住んで茶農家を始めた。

 製茶組合のおじいさんは、茶畑の肥料のまき方や茶葉のもみ方など基本を丁寧に教えてくれた。長男の清太ちゃん(5つ)が生まれると、近所のおばあさんたちが茶作りの繁忙期に子守をしてくれた。

 里山の頂上にある神社と参道の落ち葉をほうきで掃く当番が、四年ごとに回ってくる。自治会や消防団、道路舗装の仕事にも頻繁に駆り出される。高齢化が進み、三十〜四十代の夫婦は三組しかいない。

 それでも「きれいな水と助け合う心がここにはある」と大介さん。「自分たちのように新しい人が住み始める環境はある」と信じている。

 お年寄りたちの世話になるばかりではない。

 引っ越してきた直後に空き家を借り、中学生向けの小さな学習塾を始めた。夫婦そろっての高学歴を見込まれ、「孫の勉強を見てくれんか」と頼まれたのがきっかけだ。

 英数国理社…どんな教科でも大丈夫。映画館になかなか行けない生徒たちだから、インターネットを使った貸しDVDの宅配サービスでお勧めの作品も教える。ムラの塾ならではの気配り。

 「お茶作りも人づくりも頑張る。春野が自分たちの居場所だから」。昨年十月に次男の秋高ちゃんが生まれ、四人家族になった。

(久下悠一郎)

 <地域コミュニティーの衰退> 内閣府の昨年1月の世論調査によると、地域の付き合いをしていない人は31・8%。人口10万人以上の都市で割合が高い傾向がある。ただ、理想として考えるのは「住民すべての間で困った時に助け合う」が46・3%で「気の合う住民の間で助け合う」の24・2%を大幅に上回り、多くの人が災害時などに地域の結びつきを重視していることを表している。

=おわり

 

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