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静岡連載

「散らかしても」いいら! ゆったり人物伝<4>

◆子ども連れの外食 家族で楽しんだ証し

幼児が食事中にテーブルを散らかすのは気にしないで、と呼び掛けるポスター=浜松市東区天王町の五味八珍天王店で(袴田貴資撮影)

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 ラーメンの麺を手づかみにした指であちこち触るものだから、塩味のスープで椅子がべたべたになった。イチゴ牛乳の紙パックをそのまま水のコップに突っ込んだから、テーブルの上はびしゃびしゃだ。頬がふっくらした二歳の男の子がにこにこ笑った。「あ〜あ」とため息をつくお母さん。おろおろするお父さん。

 そんな時、中華レストラン「五味八珍」のポスターは優しく呼び掛ける。

 「お子さんは散らかすことの名人です。私達も幼い頃はそうでした。テーブルの上や席の周りの汚れ等を一切お気になさらないで下さい」

 浜松を本社に静岡、愛知、山梨、神奈川の四県で四十九店舗を展開する老舗で、全店が同じポスターを掲げている。社長の渡瀬徹さん(48)は「親御さんにゆっくり食事を楽しんでほしい」と力を込める。創業者で父の淳三さん(故人)が三十年ほど前に打ち出した経営理念だ。

 「五味八珍」がまだ持ち帰りギョーザの専門店だった一九七〇年代。淳三さんは毎日朝から深夜まで働き続け、数少ない休日はちょっと高価な中華料理店に入ることが多かった。レストラン経営に向けた情報収集だったのかもしれない。

 「そんな店で気づいたんだ」。徹さんが大人になってから、淳三さんが回想したことがある。「妻が食事を楽しんでいない」

 幼い徹さんがテーブルの上を散らかさないようにと気を配るあまり、自分が料理を口にする余裕が無くなっていた。「世の中のお母さんたちもきっと同じだと思い至った」。淳三さんは「遠慮せずに散らかして」をひらめいたという。

 実際にやってみたら、特にランチタイムの混雑中に席を散らかされるのは正直言って店員に大きな負担がかかった。しょうゆ差しがひっくり返されることもあるし、接客が遅れて叱られることもあるだろう。

 それでも「父の思いを今後も形にしていきたい」と徹さん。毎年春の新人研修で、このポスターの意味を伝え続けている。

 テーブルを思う存分に散らかしてもらったのは、家族だんらんの証し。徹さんは「われわれは喜んで片付けよう」と笑った。

(西山輝一)

 <過度なきれい好き> 厚生労働省によると、手洗いや掃除を必要以上に繰り返すなど自分自身で制御できないほどのきれい好きは、強迫性障害という精神疾患に該当する。幼いころの厳しすぎるしつけや対人関係のストレスが影響する可能性が指摘される。日本国内の発症者数は分かっていないが、米国精神医学会の研究によると、現代社会では人口の0・5〜2%がこの疾患とみられている。

 

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