トップ > 静岡 > 地域特集 > 名前しんぶん > 記事一覧 > 2017年の記事一覧 > 記事

ここから本文

名前しんぶん

[前田しんぶん]金山寺味噌 熟成の逸品

写真

◆静岡県民のソウルフード!?

 朝な夕な、静岡県民のご飯のお供やお酒のつまみとして食卓に登場する金山寺味噌(きんざんじみそ)。だがちょっと待ってほしい。その光景が見られるのはご近所だけかも? 人気に驚いた県外出身者の目で、その正体と作り方を探ってみた。

金山寺味噌を手にする神戸さん

写真

 唐突だが、古典落語「黄金餅(こがねもち)」をご存じだろうか。個人的に「金山寺」という単語を初めて聞いたのが、昭和の名人・古今亭志ん生がこの噺(はなし)をかけた高座のCDだった。貧乏長屋に住む主人公・金兵衛(きんべえ)さんが金山寺味噌を売る「金山寺屋」なのである。

 一九六〇年代の録音だと「金山寺の金兵衛」としか紹介しないので、お寺の人だと思った。物語の背景である江戸時代や、志ん生が生きた時代にはおなじみの食材で、説明がいらないほどありふれた職業だったのかもしれない。

 志ん生の次男・三代目古今亭志ん朝の八〇年代ごろの高座では「金山寺というなめ味噌を行商する金兵衛さん」と解説している。既に東京では「珍味」だったのか。個人的にも居酒屋の品書きで見かけたぐらいで、その後も積極的なご縁はなかった。

◆甘くない「大人の味」 富士の神戸醤油店

 ところが半年前、こちらに転勤してきて驚いた。スーパーに金山寺コーナーの棚が区切られ、「甘口」「田舎」など十種ほど売っている。これまで住んだ東京、群馬、埼玉のどこでもこんな光景は見たことがない。さては金兵衛さんは駿河の出身か、と富士市北松野の「神戸醤油(しょうゆ)店」に駆け込んだ。本当にみんなこんなに金山寺を食べてるんでしょうか?

麹の香りをかいでみる。右は神戸邦明さん=富士市北松野の神戸醤油店で

写真

 「うちの金山寺は昔ながらの製法で、これじゃなきゃ、と三食食べてる人もいますね」と店長の神戸邦明さん(54)。やはり盛んに食べられていた。いや、むしろ食べ過ぎじゃないか。神戸さんの店は醤油店を名乗るが、みそや金山寺などの麹(こうじ)加工を専門とするプロ中のプロ。完成品ももちろん売っているが、材料に麹をつけた段階のものも売っており、好みの野菜を加えればいわば金山寺の「育成」を楽しむこともできる=別項。好きな人は、大きなたるに作っても、親戚に分けたりしてひと月でペロリと食べてしまうという。

 神戸さんによると、金山寺は和歌山、千葉と並んで静岡で好まれる食材で、おかずとしてご飯に載せ、そのまま食べるのが一般的。砂糖や水あめで甘くしたものが多いのだが、神戸さんは塩と麹そのものの風味を生かし、甘くしない。なのでスーパーの試食に出すと「これは金山寺じゃない!」と拒否反応を示す人もいるのだとか。一方で、お酒の好きな人には好評で、「大人の金山寺」とも呼ばれている。

 熱烈なファンは高齢者が中心で、若い人たちの食卓にどれほど根付いているのか…と神戸さんは心配する。そういえば、落語の金兵衛さんもいろいろあった末に大金を手にし、商売替えして餅屋になってしまう。そのうち神戸さんも金山寺を扱わなくなったり…?

 「いえ、私が店を継いで八年、金山寺の売り上げは少しですが増えています。もっと食べ方を提案し、若い方にも知ってもらえれば」。リニューアルした店のサイトを頼りに、初めて訪れる客も増えている。

 神戸さんのお薦めは、ディップとしてエシャロットにつけるもの。試食させていただくと、シャキシャキとした西洋野菜の歯応えに、金山寺の奥行きある味わいが絶妙にマッチ。ご飯もお酒も進む逸品だ。ほかに、マヨネーズと混ぜて皮に塗った「鶏肉の金山寺味噌焼き」なども料理教室で好評だという。

◆お手製の金山寺 仕込み中

 神戸さんに無理をお願いし、特別に金山寺づくり教室を開いていただいた。

 材料は種麹(たねこうじ)と小麦、丸麦、大豆、塩を合わせた神戸醤油店特製の「金山寺味噌麹」(1キロ)、ナスとショウガ、水(630ミリリットル)。手順は(1)味噌麹に野菜と水を加える(2)混ぜる。終わり。

野菜と金山寺麹を混ぜたばかりの状態。これから2〜3カ月熟成する

写真

▼毎日混ぜる ▼2〜3カ月待つ ▼熟成

 張り切ってエプロンと三角巾を用意したが、五分足らずで終了してしまった。でも、ここからが長い。二〜三カ月間、一日一回かきまぜて熟成させる。好みの味になったら冷蔵庫に移し、熟成を止めてよい。

 小ぶりの味噌樽を家にお迎えしておよそ二週間。かき混ぜるのを忘れて寝てしまい、夜中に慌てて起きるのもしばしばだ。さて、どんな味になりますか−。

 神戸醤油店の金山寺味噌は百二十グラム・二百二十円から、富士市の一部スーパーや静岡市の百貨店などでも販売。味噌麹は一キロから。ネット販売もある。問い合わせは同店=電0545(85)2428=へ。

 前田朋子(まえだ・ともこ) 江戸っ子とは言えない東京都三鷹市生まれの46歳。学生時代は文中に登場する古今亭志ん朝師を追いかけ、いつか取材をと記者になるも、まさかの早世でかなわず。ロス歴はや16年。でも志ん朝師のおかげで金山寺味噌と出合いました。

 

この記事を印刷する

中日新聞・北陸中日新聞・日刊県民福井 読者の方は中日新聞プラスで豊富な記事を読めます。

中日新聞しずおかの記事はこちら

新聞購読のご案内

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山

Search | 検索