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イチ推し

浜松の障害者施設で観光ツアー 共生 ありのままに

◆「好きなことをするだけで価値」

施設利用者と交流する記者(右)=浜松市西区のアルス・ノヴァで

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 相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件から間もなく二年。発生当時、人里離れた山あいにある施設で障害者が閉鎖的な集団生活を送っていたことを知り、大きな衝撃を受けた。障害者との共生のあり方について考えてみたい。そんな思いで、浜松市西区の障害者福祉施設「アルス・ノヴァ」を観光する「タイムトラベル100時間ツアー」に参加した。

 「多様な価値観と気軽に触れ合う機会をつくろう」という思いを込めて「観光ツアー」と銘打つこの企画は、全国でも珍しい取り組みだ。アルス・ノヴァを運営する認定NPO法人「クリエイティブサポートレッツ」が二〇一六年五月に始め、福祉に関わったことのない学生や社会人の関心を引いている。参加者には、共生のあり方や自らの生き方について考えるきっかけとなり、障害のある人たちにも参加者と接して変化が表れているという。

 「自分の好きなように過ごしてください」。注意事項の説明で、ツアーは始まった。特定のプログラムが用意されているわけではない。利用者と職員を紹介するカードが手渡され、そこにある顔写真や性格の特徴などを手掛かりに自由に交流を図る。

 施設を見て回ると、階段で体を左右に揺らせながら、ラジカセで同じ音楽を繰り返し再生させている男の子がいた。一緒に昼食をとった女の子は、楽しくなった様子で甲高い声を上げた。初めての出来事ばかりで、思わず身構えた。どこにいればいいのか分からなくなり、歩きまわった。

 そんな状況をなごませてくれたのは、一人の男の子だった。「名前は何?」「どんな音楽が好きなの?」と話しかけてきた。しばらく世間話から恋愛話まで話し込み、肩の力が抜けた。そして、ハッとした。彼らは障害者である以前に一個人だ。「障害者」とひとくくりにして理解しようとしていた自らを恥じた。彼らとの間に壁をつくっていたのは自分だったと思い知った。

 ハンモックに揺られたり、打楽器をたたいたりと、利用者それぞれがその人らしく過ごしている。ありのままの姿を見てもらう施設の姿勢に好感が持てた。

 大津市からツアーに参加した公務員の女性(24)は「その人が好きなことをしているだけで、価値があるということを学んだ」と感心した様子で話した。

 クリエイティブサポートレッツの理事長、久保田翠さん(55)は「障害者も多様な人たちと触れ合うことで彼らの社会が広がる」と語り、「障害の有無ですみ分けされず、交ざり合う社会をつくりたい。ツアー参加者の価値観を揺さぶることができれば」と期待する。

 ツアーは、毎月第四週末に二日間の日程で受け入れている。要予約。(問)クリエイティブサポートレッツ=053(440)3176

 <アルス・ノヴァ> ラテン語で「新しい芸術」の意。クリエイティブサポートレッツが2010年に開設した。アートを通じて障害者の生き方を発信する活動が特徴的で、浜松市中区で繰り広げたプロジェクト「表現未満、実験室」が評価され、18年3月に理事長の久保田翠さんが文化庁の芸術選奨新人賞に選ばれた。

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松島京太記者(報道部)

 川崎市出身の2年目記者。暇さえあれば会員制交流サイト(SNS)を眺める日々だが、匿名で障害者への差別的発言を連ねる人たちに嫌悪感を抱いてきた。

 ただ、障害者が身近にいない場所で暮らしてきたため、彼らとの接し方が分からず悩んできた。障害の有る無しにかかわらず参加できる多様性に富んだ社会を切に望みます。

 

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