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イチ推し

湖西の地歌舞伎に挑戦 ぃよおっ みんな千両役者

◆1カ月休まず けいこ

赤星十三郎役を演じる記者(中)=湖西市新居町で

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 芝居や踊りの経験が全くない五十歳の記者が、湖西市新居地域センターで六月末にあった湖西歌舞伎保存会の発表会に出演させてもらった。主婦、公務員、教師−、老若男女、普通の方々が役者に大変身。大向こう(掛け声)も自由に飛び、観客は笑い、舞台と一体になる。私自身の出来栄えはともかく、身近な人の晴れ舞台を皆で楽しむ地歌舞伎の素晴らしさを改めて実感した。

 「発表会前の一カ月は、休みなしで集中けいこ」。昨年六月、保存会を取材した際の青島一郎代表(59)の一言が印象に残っていた。一カ月なら−。そんな無謀な私を、保存会は快く受け入れてくれた。

 もらった役は「白浪五人男」の一場面「弁天娘女男白浪(めおのしらなみ)・稲瀬川勢揃(せいぞろい)の場」での赤星十三郎。五月下旬、古い芝居小屋が残る公民館で練習が始まった。「腹から」と指導されて思いっきり声を出す。「赤星は線が細くどちらかというと女っぽいの。もっと高い声で」−。女子力が足りないらしい。

 声に集中すると動きがおろそかになり、動きに気を取られると「語尾、伸ばさない」。師匠は聞き逃さない。厳しいだめ出しは続くが、師匠も会員も嫌な顔せず何度も見てくれて、親身に言ってくれる。できない自分がもどかしかった。

 本番直前でもイントネーションが定まらない。本当に務まるのか。「最初に比べたら上達よ」という声にすがった。

 本番前日はリハーサルだけでなく、大道具を倉庫からトラックに積み、舞台で組み立てるのも大事な仕事だ。会員家族や知人らが前日と当日、裏方として大活躍してくれる。湖西市文化協会の事務局や理事たちもテキパキと会場を準備。役者が少ないゆえの長い幕あいも地元太鼓グループがつないでくれる。「皆の協力がないとできない」と感謝する青島代表。地域での伝統と絆を感じた。

役者だけでなく知人、家族らが大活躍して大道具を準備する=湖西市新居町で

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 発表会の当日。新居地域センターの階段踊り場で何度もせりふを確認した。初めての白塗りの冷たさや、かつらにはしゃいでいると「始まるよ」

 演じる場面は、盗賊五人が一人ずつ登場し、順番に口上を述べる。歌舞伎メークなら私が誰か分からないから「着ぐるみ」と同じ。そう高をくくっていた。

 いざ満席の客席の前へ。「支局長!」。声が飛ぶ。事前に紹介されて皆、私が誰か分かっているのだ。どんどん足がすくむ。自分の声がマイクに通っているのかも分からない。とにかく声を出すが、あごが上がっていく。「由美ちゃん!」。きっと知っている方だろう。笑顔で応えたいのを我慢。震える足で見えを切る。ふー、幕が下りた。

 発表会十日前、長く保存会を支えた看板女優が病気で亡くなった。彼女の十八番も演じ、「きっと見ていてくれる」と言っていた佐原希依さん(24)は、終演直後から涙が止まらないままだった。思いはきっと受け継がれていく。演じる側も見る側も暮らすこの地で。そう願わずにいられない。

 <地芝居 全国218団体活動> 全日本郷土芸能協会の調査によると、2015年1月現在、全国で活動している地芝居(地歌舞伎)団体は218で、活動を中止・消滅した団体は30だった。県内では5団体が活動している。

 湖西歌舞伎保存会は、江戸時代からの万人講と呼ばれる農村歌舞伎の流れをくみ、1979年に発足。発表会のほか、浦川歌舞伎保存会(浜松市天竜区)や雄踏歌舞伎保存会「万人講」(浜松市西区)、長野、愛知の保存会と毎年、会場を持ち回りで「三遠南信ふるさと歌舞伎」公演を開く。湖西の佐原希依さんと雄踏の野末梨花さんの若手2人は、ツイッター「三遠南信歌舞伎青年部kumadori」でも魅力を発信している。

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野村由美子記者(湖西支局)

 岐阜や愛知でいくつかの地歌舞伎を見て憧れていた。怒涛(どとう)の1カ月に、一瞬の大変身。今も夢のよう。発表会翌週、市内で取材時に「良かったよ」と声を掛けてくれる人がいた。青島代表は「始まるまでは本当にしんどいけど、終わるとまたやりたくなるんだよ」。分かる気がした。皆さんもぜひ、いかがです?

 

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