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静岡経済 特集

やらまいか ヒット商品の作り方<3> ワゴンR

◆スズキ 「すべて逆の方向にしよう」

初代「ワゴンR」と開発に携わった中川さん(手前)、桜井さん(左)、畔柳さん=浜松市南区のスズキ歴史館で

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 「こんな車が、本当に売れるのか」。一九九一年一月のスズキ本社(浜松市南区)。若いデザイナーが会議で示した開発車「ワゴンR」の概要に、設計部門の技術者らは顔をしかめた。背が高くて角張った外観、狙う顧客層は男性だった。それまでの軽の「常識」とは、かなりかけ離れていた。

 軽は当時、女性向けか商用向けが中心で、大きな乗用車を小さくしたような流線形の背が低い車体が人気だった。デザインを担当した中川一郎さん(53)は入社五年目。「自分が欲しいと思う大人の男性向けの軽がなかった。ならばと業界の流れとすべて逆の方向にしようと考えた」と語る。

 開発が始まったのは八七年になる。背を高くすることで後部座席を広くし、大人四人がゆったりと座ることができる車を目指した。しかし排気量や全長など大幅に軽の規格が改定されることになり、開発は凍結された。

 中川さんが再開の指示を受けたのは九〇年だった。「『やっておいて』と軽く言われただけ。若手だから期待もされていなかった。その分、自由にできた」と振り返る。

 存在感にこだわり、スケッチには「ベンツの横に置いても負けない力強いボディー」と書いた。後部に向けて下げるのが主流だった屋根は上げた。「夕日を受けたシルエットだけで分かるようにしたかった」。横長がほとんどだったヘッドライトは縦長にし、個性的な顔を意識した。

 シート設計を担当した同期入社の桜井昭弘さん(48)は「男性ユーザーの不満に応え、良いところを突いている」と感じたという。大柄な男性でもゆったり乗るには、どんな座席の高さがいいのか。コンピューターシミュレーションのない時代。実車の屋根を切り取り、鉄パイプで試作した。座席を上げ下げして乗りやすい高さを探り、車高は従来の軽より二割高い一・六八メートルにした。

 「デザインの要望に応えようと妥協はしなかった」。後部座席はワンタッチで背もたれが前方に倒れ、水平の荷室になる仕組みも業界で初めて導入。流行していたマウンテンバイクを積める広さにした。

 開発当初の販売目標は、月三千台(発売時は五千台)。量産で採算が合うぎりぎりのラインで、社内の期待も高いとはいえなかった。価格を抑えるため部品を共通化し、約七割は「アルト」など主力車の部品を活用した。

 九三年九月、初代ワゴンRが発売された。バブル崩壊などで、顧客の好みは大型の高級車から離れていた。軽なのに車内空間が広く、使い勝手にこだわったこの車はピークの二〇〇四年三月には約三万三千台を販売し、昨年末までの累計販売台数は約四百三十二万台になる。

 商品企画を担当した畔柳(くろやなぎ)清光さん(53)は「軽が一番下とされた自動車の見方を崩した。指名買いでワゴンRが売れた。堂々と軽に乗る時代に変えた」と語る。

 他の自動車メーカーも追随し、「軽ワゴン」という新たなジャンルが生まれた。今では「スペーシア」などさらに背の高いタイプと合わせ、軽市場全体の約六割を占めている。

(矢野修平)

 

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