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静岡経済 特集

やらまいか ヒット商品の作り方<2> マイクロPMT

◆浜松ホトニクス 「モノづくりは、やるかどうか」

シリコン基板を加工して作った「マイクロPMT」と久嶋さん。マス目に沿って切断して完成する=磐田市下神増で

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 「半導体を作る技術を応用すれば、光電子増倍管(こうでんしぞうばいかん)を大量生産できるのでは」

 光センサーの光電子増倍管を生産する浜松ホトニクス電子管事業部では毎年春、社員が一人ずつ年間の作業目標を決めて社内で発表している。一九九五(平成七)年に、三十代半ばの技術者だった電子管技術部長主幹の久嶋(きゅうしま)浩之さん(58)が掲げたのは、こんな目標だった。

 通常の光電子増倍管はガラス製の真空管で、中にプレス加工をした数十点の部品が入っている。一本ずつ手作業で組み立てるため、効率よく量産するには限界があった。半導体の技術を応用するという発想が結果として、指先サイズの光電子増倍管「マイクロPMT」の誕生につながる。

 マイクロPMTは幅一センチ、奥行き一・三センチ、厚さ〇・二センチのチップ型。直径二十インチ(約五十一センチ)の光電子増倍管が世界で最大なのに対し、最小のタイプになる。ガラス管ではなく、半導体の材料として使われるシリコンの基板(ウエハー)を採用した。基板の表面を細かく彫って加工し、二枚のガラス板で挟むシンプルな構造だが、微弱な光を電子に変換して増幅し、電気信号として検出する仕組みは二十インチと同じだ。

 開発までの道のりは長かった。光電子増倍管の内側には電子の通り道である「電子増倍部」があり、電子はそのジグザグ型の道を通る中で増幅される。当時はシリコン基板を深く彫る技術が確立されていなかった上、通り道もチップサイズの基板内ではどのような構造が最適なのか、手探り状態だった。

指先に収まる光電子増倍管「マイクロPMT」=磐田市下神増で

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 立ちはだかる技術面の壁。先が見えない中でも「必ず実現できると思い、アイデアを温め続けた」(久嶋さん)という。日ごろの業務と平行して開発を続け、構造の設計をまとめた。

 ブレークスルーは二〇〇〇年代に入ってからだった。基板の加工技術がめざましく進歩し、アイデアが晝馬(ひるま)輝夫社長(現会長)の目に留まった。製品化に向けた社内チームを結成し、一〇年に開発に成功した。発想から実に十五年が経過していた。

 こうして生まれたチップサイズの光電子増倍管は、一度に八十〜百個ほど生産できる。マイクロPMTは携帯型の医療機器に組み込み、血液検査や家庭での健康診断などの応用が見込まれる。開発の副産物として、真空状態のままシリコン基板をガラス板で挟む技術も得ることができた。

 「未知の領域でも一歩を踏み出すことで新しい視点が生まれ、そのたびに発見がある。モノづくりの基本は『やるかどうか』ということに尽きる」。久嶋さんはそう確信している。

(西山輝一)

 

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