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静岡経済 ヒットの系譜

磯自慢酒造 磯自慢

◆「品質」でファン拡大

「品質にこだわり、じわじわとお客さんを増やしていく」と意気込みを語る磯自慢酒造の寺岡洋司社長=焼津市で

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 果実のようなふくいくとした香りの「磯自慢」。磯自慢酒造(焼津市)が江戸時代の天保元(一八三〇)年から造り続けてきた銘酒だ。

 三十年前は販売エリアが焼津市と旧大井川町のみで、地元でしか知られていなかった。八代目の寺岡洋司社長(57)は「三百石(年産三万本)の県内で一番小さな酒蔵だった」と語るが、二〇〇八年夏に北海道洞爺湖で開かれた先進国首脳会議(サミット)の社交ディナーで振る舞われてからは“全国区”に。生産本数が少ないこともあり、すぐには手に入らない地酒になった。

 日本酒を扱う専門商社に勤めていた寺岡社長が、家業を継ぐため焼津に戻ってきたのは二十七歳になったころ。「大手酒造へのおけ売りもやっていなかった。生き延びるには品質しかないと(先代の)父と話し合って、少ない本数だが良い酒を造り、良い酒屋と手をつないでやってきた」と振り返る。

 静岡では地元産の日本酒の消費量が二割以下という。その中で、県外にも積極的に販路を広げてきた。

 水は大井川に流れ込む南アルプスの伏流水を使う。ミネラルが程よく溶け込んだ軟水で、大手飲料メーカーの酎ハイや梅酒、コーヒーなどにも使われている。原料米にもこだわる。寺岡社長は「今は最上級の山田錦が100%。兵庫県の農家に六年通って使えるようになった」と明かす。

 一九八〇年代、沼津工業技術支援センターで河村伝兵衛氏が中心になって発明した「静岡酵母」を使う。柔らかな果実香が特徴で、「静岡の知的財産」として県外には出していない酵母だ。

 八五年ごろには、醸造用糖類の使用を県内でいち早くやめた。コスト増で値上げをしたため、一部の酒販店から反発もあったが「高い品質」にこだわった。「お祝い事などで手が届く価格」と判断し、純米吟醸を県内で初めて商品化するなど、さまざまな分野で「県内初」に挑んできた。

 販路拡大の引き金になったのは、全国の銘酒を扱う「はせがわ酒店」(東京都江東区)の目に留まってから。その後は、口コミで取扱店が増えていった。寺岡社長は「焼津市外の取扱店は約四十店にすぎないが、大半の店が日本酒の三本柱の一つとして扱ってくれている。良い酒屋さんと知り合えたのが一番の財産」と語る。

 いま思い描いているのは、日本酒が海外のレストランや食卓で楽しまれている風景だ。「五十年かかるかもしれないが、さまざまな地方で造られた日本酒がワインと同じように世界で飲まれるようになってもおかしくない」と力を込める。

 磯自慢は米国や欧州、シンガポール、豪州の料理店で扱われている。ただ、海外でファンを増やすにしても特段のことはしないつもりという。「品質にとことんこだわってお客さんを増やしていく」と寺岡社長。これが、日本酒の消費量が減っている中でも人気が衰えない磯自慢のスタンスだ。

(白山泉、写真も)

 

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