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静岡経済 ヒットの系譜

ヤマハ ホームシアター「YSP−1」

◆1台5役で立体再生

映画館のような音響を家庭で実現したヤマハの「YSP−1」。左はYSPシリーズの開発を担当する村田守啓さん=浜松市中区のヤマハ本社で

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 映画館さながらの音響を自宅で実現する「ホームシアター」。かつては専用アンプと多数のスピーカーが必要で、普通の家庭には夢の存在だったが、ヤマハの「YSP−1」の登場でグッと身近になった。八年前の二〇〇四年のことだ。

 横長の本体一つで、部屋の正面と前後左右に五つのスピーカーを置くのと同じような立体的な再生効果が得られる。それを可能にしたのが、音を「ビーム」にして飛ばす技術だった。

 スピーカーから出た音は、波紋のように広がる。スピーカーを横に並べると、互いの波紋が重なり、一本の強いビームが発生する。音が出るタイミングをずらすことで、ビームの方向は変えられる。

 YSP−1の前面には、直径四センチの小型スピーカー四十個を横三列に配置。十万分の一秒単位で一つ一つの再生を制御して、同時に五つの方向に音を飛ばす。音が反射した壁の位置が、仮想のスピーカーとなるわけだ。

 この技術の基礎は、英国企業が開発した。しかし、二百五十個以上のスピーカーを使ったテレビ大の代物で、音も悪かった。

 楽器を含めた音の総合メーカーとしてヤマハは、音質では譲れない。小型化のため、スピーカーの数を減らす難しい課題にも、技術陣が総力を挙げて取り組み、六分の一の個数で同等の再生能力を確保した。

 スピーカー部の開発を手掛けたAV機器事業部技師補の田中一伯さんは、「低音専用のスピーカーを追加したり、本体の密閉性を高めたり。生産開始の直前まで設計変更を重ねた」と振り返る。

 当時は、地上デジタルテレビの試験放送が始まったころ。家電各社は、大画面テレビの開発競争を繰り広げていたが、価格は四十万〜五十万円もした。

 ヤマハはYSP−1を十五万七千五百円で投入。当初は、技術革新にほれ込んだ“新しもの好き”の顧客が多かったが、配線要らずで部屋がすっきりすると、次第にファミリー層にも広がり始めた。

 「薄型テレビを買ったものの、内蔵スピーカーの音質に満足できない人が多かった」。発売直前に開発チームに加わり、現在もYSPシリーズの開発を担う同事業部技師の村田守啓さんは、ヒットの背景をこう分析する。

 〇五年に発売した第二世代では、部屋の形に合わせて再生環境を自動で調整する機能を追加。〇七年発売の第四世代からは、YSPのリモコン一つで、メーカーの異なるテレビや録再機も操作できるようになり、販売台数を飛躍的に伸ばした。

 昨年七月の地デジ移行を境に、テレビの販売は急速にしぼんだが、薄型化の流れは続いている。再生技術の進歩も止まらない。村田さんは、「新しい技術に対応しながら、より多くの家庭に夢を届けていきたい」と前を見る。

 (林知孝、写真も)

 

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