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AIする未来 〜人工知能がつくる新聞〜

認知症ケア 患者の心 見える化

 AIが私たちの社会に入り始めている。人の仕事に取って代わる存在として描かれることも多いが、本来は人を助け、人の暮らしを豊かにするためにあるべきものだ。静岡大で進むさまざまなAI研究を紹介し、そこから広がる「AI(愛)する未来」を展望する。

◆環境や表情分析し解説

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 スクリーン上で、車いすに座った認知症の八十代女性が口を開け、ブラシを持った男性の介護福祉士が向き合う。四十八人が暮らす、東京都品川区の高齢者向けケアホーム。先月下旬、研修室に職員ら十一人が集まり、静岡大浜松キャンパスの大学院生が撮った映像に目を凝らしていた。

 繰り返し流されたのは、口の中をケアする場面。職員たちがペンを滑らせ、女性の表情や姿勢の変化、その理由に思いを巡らせた。

 「無理に口を開けることは嫌だと感じているのでは」「最初にしっかり姿勢を整えておくべきだ」「最後まで表情がさえなかった」「声かけが淡々としている。もっと心地よくできるはず」。あふれるように次々と気付いたことを伝え合った。

 終わりに近づくと、施設長の田中とも江さん(69)が利用者本位のケアをするためのこつを説いた。そしてこう添えた。「人間には見落としがある。繰り返し見ることで、状況の理解と、振り返りができる」

 田中さんの傍らでは、半年前から通いつめる同大情報学部の桐山伸也准教授(43)がノートにメモを取っていた。映像を撮影した修士二年の福田幸大さん(24)も、ほほ笑みながら再生を繰り返した。

スクリーンのケア映像を見て意見を交わす職員ら=東京都品川区で

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 情報学を専門とする静岡大のグループがここで共同研究するのは、本人に寄り添った介護の秘訣(ひけつ)を多くの人の間で共有するため。介護者と利用者の間で完結しがちなケアの現場を「見える化」し、職員が振り返ったり他の人が学んだりする。その道のりにこそ、人工知能(AI)の出番がある。

 まずは解析用の材料を蓄積する。研修会で、職員から出たさまざまな「気付き」を記録。施設内の居室や食堂、廊下の六カ所には温度や湿度、明るさを感じ取るセンサーを置き、環境を調査。利用者ごとの支援計画書は画像で取り込み、必要な情報を今後電子化する。

 利用者の心の状態の把握にも取り組む。AI技術を駆使して心拍や音声、表情から状況を自動的に読み取り、その状況がなぜ引き起こされたかを分析できるようにする。

 これらの膨大な情報をAIで統合、解析することで、場面ごとの解説を加えたデータベース(DB)を築く構想だ。

 静岡大の研究者らは二〇一七年十一月、認知症ケアの知見をAIで解析する「みんなの認知症情報学会」を設立。桐山准教授も理事として参画、市民から広く事例を集めて活用する取り組みを始めた。

 認知症患者の家族にとって、介護を巡るあつれきや不和の恐れは常につきまとう。家族らがDBの情報や専門家の声といった客観的な知識に接する仕組みをつくることで、患者の状態を正しく理解して受け入れ、うまく暮らす手助けになるかもしれない−。桐山准教授はそんな展望を思い描く。

 「情報学がAIで目指すのは人間の内面の理解。認知症患者がどんな暮らしを望むかの目標を、家族や医師、介護士らで共有したい。皆がハッピーで穏やかに過ごせるように」

(松本浩司)  

 

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