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<庶民革命は今>(5) 評価も、再出発見えず

2017年4月1日 紙面から

河村市長が中止を表明した相生山緑地を横断する市道=名古屋市天白区で

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 工事が止まって七年、里山は再生を始めていた。橋を渡すために木々が伐採された通称「いのちの谷」では、五メートルほどに育った木々が再び大きく枝を伸ばす。谷底のコンクリートの橋台が、森の勢いに埋もれかけていた。

 国内有数のヒメボタル生息地で、ナゴヤドーム二十六個分、百二十六ヘクタールの相生山緑地(名古屋市天白区)。そこに、約九百メートルの市道を横断させるはずだった。

 一九五七年に都市計画決定され、総事業費三十六億円のうち二十九億円を投じ、工事は八割まで終わっていた。だが、河村たかし市長が二〇一〇年一月、事業を見直す「ストップ・アンド・シンク」の対象として中断。一四年末に「自然を残そうと判断した」と中止を表明した。

 「みんなあぜんとしたよ。青天のへきれきだった」。地元の「天白区を住みよくする会」会長の原宏さん(75)らにとって、渋滞緩和や緊急車両の通行路確保のための市道開通は悲願だった。

 市長は中止と同時に「緊急車両用の道はつなげる」「すでにできた道路には、子どもたちや車いす利用者が楽しめるキャンプ場をつくる」と配慮もみせた。しかし、二年たっても動かない。

 市は一五年度末に事業廃止と、跡地の公園整備に向けた検討会議を設置。ようやく、そこで「手続き完了まで相当長くかかる」(市幹部)と判明した。「将来的にも市道は必要ない」との証明に時間を要するためという。

 市長が工事を中断したのは、市内で生物多様性条約第十回締約国会議(COP10)が開催される九カ月前。市民団体「相生山の四季を歩く会」(南区)事務局の古川善嗣さん(66)は中止を歓迎する立場だが、その後の計画が進まないことに「『自然派』としての点数稼ぎといわれてもしょうがない。市長として発言した重みを、一体どれだけ受け止めているのか」と嘆く。

 前市長時代に決まった事業は、いったん立ち止まって考える。無条件に計画を進めない姿勢を評価する声がある一方、再出発の先が見えてこない。

 「多くの税金をかけたのだから、活用を有効に考えていくべきでは」。二月市議会の財政福祉委員会では、相生山と同様に立ち止まった陽子線がん治療施設(北区)の問題が追及された。

 市長は、陽子線の効果が判然としないとして、公的機関が二百四十五億円も投じるのは疑問だと一時凍結。三カ月半後に継続を決めたが、工事を請け負った日立製作所は昨年四月、工期延長に伴う追加費用約三億八千万円の支払いを市に求めて提訴した。これとは別に、二月末現在で遅延利息は計八千百万円に上る。

 市長は、保険適用がない三百万円近い治療費や、代替医療の可能性を十分に説明するよう指示。その影響かは不明だが、一三年春の稼働以降、一六年度は初めて治療患者が減少する見通しだ。

 疑問が残り、賛否が割れる事業のストップ・アンド・シンク。ただ、いまだ見えない解決策は、次を担う市長に課されることになる。

 =終わり

 (この連載は、安田功、蜘手美鶴が担当しました)

◆河村市長ひと言

 相生山の市道は計画当時と違い、周辺の渋滞はほぼ解消され、生活道路への入り込みも規制で解決できる。緊急車両の道をどうつなげるか、キャンプ場をどうするか「はよ、やれ」と言っている。名古屋城天守閣の木造復元が大変だし、検討チームに任せてあるでよ。

 陽子線治療の優位性は証明されておりません。凍結により、複数の医師らによる治療方針の意見交換が導入され、本来、別の治療ですむ四百人が、治療費の差額二百五十万円を支払わずに済んだ。庶民の十億を節約した。

 追加費用の問題は、裁判外紛争解決手続き(ADR)で和解金一億五千万円余が示されたが、金額の根拠がないままで妥結なんてできん。

◆候補者にこれが聞きたい 読者の質問を募集

 本紙は名古屋市長選を前に、候補者の人となりや考え方を知り、投票の判断基準とするための質問を読者のみなさんから募集しています。市長選には、3期目を目指す現職の河村たかしさん(68)と前副市長の岩城正光(まさてる)さん(62)が立候補を表明しています。

 質問を寄せていただくのは18歳未満でも構いません。はがき、ファクス、電子メールで受け付けます。住所、氏名、年齢、職業、連絡先を明記のうえ 〒460 8511 中日新聞社会部「名古屋市長選」係=ファクス052(201)4331、電子メールshakai@chunichi.co.jp=へ。購読者向けネットサービス「中日プラス」でも応募できます。

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