静岡

<18才の夏@天竜高> ヒナコ、投票行くってよ。(上)

2016年7月5日

 選挙権年齢の十八歳以上への引き下げを機に、天竜高校(浜松市天竜区)では五月下旬から六月中旬まで現代社会の計五回の授業で、三年生四十五人が日本の課題や若者の政治参加を議論した。一連の授業後、三人の生徒と担当教諭に話を聞き、高校生の本音や主権者教育の狙いに迫った。

◆私たち…若者代表!?

 ああでもない、こうでもない…。ヒナコとチカコにとって現代社会の話し合う授業は楽しい。「人の意見を聞いたり、自分の意見を言ったりして、いろいろな考えが浮かぶ」と二人。

 四回目の授業は、さまざまな家族の課題をグループで議論し、解決の優先順位を決める。ヒナコが注目したのは「ニートの息子と高三の娘を抱える母子家庭」だった。

 「やばいね。このお母さんかわいそう。息子、働けって感じ」。ヒナコの母は二年前に離婚。女手一つで家族を支える姿を思い出し、付せんに「脱ニート」と書いた。それを、はす向かいのチカコのおでこにぺたっと貼る。何でも話せる良き友は「うちの家族とも重なるわ」とぽつり。チカコに母親はいない。父は自身を含め、四人のきょうだいを一人で育ててくれている。

 卒業後、ヒナコは看護学校を受験し、チカコはメーカーに就職するつもりだ。景気が悪くても、正体の知れない「政治」に頼る気はない。結婚後も働けばいい。ヒナコが「パートナーと子どもを支え、仕事もこなす母親が理想」と語ると、チカコも笑ってうなずく。「それが大人かな」

     ◇

 休み時間。雑談の中に、ニュースの話が出る。今朝も、難しい名前の東京の偉い人がしきりに頭を下げていた。ヒナコは「税金の無駄遣いだって。ああいうの見ると、政治家って誰も信じられん」。相づちを打つチカコ。最近、テレビで目に付く「不倫」の二文字にもうんざりだ。「ならさ、結婚しなきゃいいのに」

     ◇

 最後の授業。隣の男子の発言が二人の心に突き刺さった。「長い目で見れば、選挙権年齢引き下げに意味はある。自分たちが親になったころ、子どもに十八歳が政治に関わる大切さを伝えられるかな」

 チカコが先に反応する。

 「今の私じゃ何も分からないけど、自分の子どもにはしっかり教えたい」

◆過剰に期待しないで/早く選挙学ばせて

 ヒナコも納得した。それでも、どこか「押し付けられた感」が拭えない。若者の投票率が低いのを自分たちだけのせいにはされたくない。「高校生ばかりに過剰に期待しないでほしい」。だから、授業後の感想文にこう書いた。

 「知識が少なく、私たちは大人と同様に投票するのは難しい。これからの若い世代には、もっと早い時期から選挙の大切さを学ばせるべきだ」

     ◇

 参院選が迫る六月下旬。街を選挙カーが走る。「十八歳だから有権者だね。この候補、いいと思わない?」。ヒナコに母が問い掛ける。これまでも、ヒナコは母の言葉を通じて世の中のことを学んできた。

 「わかった。行くよ」

 いつか、自分だって母親になる。そのとき、同じように言葉で伝えてあげられる大人になるために。

(西田直晃)

■5回の授業を振り返る■

 1〜3回目の授業では、大学の准教授や市職員の話を聞き、天竜区が含まれる中山間地域の人口減や少子高齢化の深刻さを学んだ。

 その後は、グループごとの話し合いを軸に展開。4回目は、架空の4家族が抱える社会的な課題を付せんに書き出し、解決すべき優先順に並べた。

 最終回は「選挙権年齢の引き下げで、若い力は政治を変えられるか」をテーマに議論した。

主な政党の公約

新聞購読のご案内