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ハイマツの種を運ぶ立役者 麦草峠のホシガラス

ホシガラス=西教生さん提供

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 県内の高山帯に広がるハイマツの群落。「もう頂上は近い」と登山者をホッとさせる風景だが、ある鳥の“貯食行動”がつくっている景観であることを知る人は少ない。

 十月中旬、北八ケ岳・麦草峠(茅野市と佐久穂町境、標高二、一二七メートル)のハイマツ群落を訪れると「ガー、ガー」としわがれた声が聞こえてきた。ホシガラスが鋭いくちばしでハイマツの松ぼっくり(長さ四センチほど)をつつき、近くの石や地面で種をついばんでいた。

 夏から秋にかけ、ホシガラスは冬の備えに忙しい。標高千六百〜二千四百メートルの亜高山帯の針葉樹林に生息し、巣作りは厳寒期の二月下旬から始める。三月に産卵し、ひなは五月中旬以降に巣立つという。

 スズメやツバメのように、植物が芽吹き、虫が多くなる時季に巣作りをすればいいのに−。記者はそう思ったが、長年調査を続ける都留文科大教養学部(山梨県)非常勤講師の西教生さん(36)=富士見町=によると、タカやテンなど天敵からひなを守るには冬が最適らしい。

 アカマツやカラマツは、松ぼっくりから自然に種子が出て、風に飛ばされていく。しかしハイマツは実が熟しても松ぼっくりは固く閉じたまま。だれかが種子を取り出さなければ発芽の機会がなく、世代更新できない。そこに登場するのがホシガラスだ。

ホシガラスの鳴き声を流しながら、生息調査をする西さん=茅野市の北八ケ岳・麦草峠のハイマツ群落で

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 ホシガラスはハイマツの松ぼっくりから種子を取り出し、のど袋に入れていく。容量は百粒ほど。いっぱいになると、自分の縄張りの亜高山帯から高山帯へ運ぶ。くちばしで地面を二、三センチ掘り、十〜二十粒埋めて貯食する。

 その記憶力は驚異的だ。ある学説によると、一羽のホシガラスの縄張りは十五ヘクタールほど。そんな広大なエリアに一シーズンで五千カ所以上埋め、冬季はそれを掘り返して命をつなぎ、四月になるとひなに与えるのだそうだ。「埋めた場所をピンポイントで覚えているところがすごいんです」と西さん。

 それでも埋めた場所を忘れることもあり、食べ残しの種がハイマツの群落を形成していく。県内では八ケ岳連峰のほか、北、南、中央アルプスなどで見られる。ハイマツは最終氷期(七万〜一万年前)に国内で分布が広がったと考えられており、すでにその頃からホシガラスと共存関係にあったと推測できる。

 ハイマツの根元で営巣する県鳥ニホンライチョウ(国特別天然記念物)はよくメディアに登場するが、その住まいを作っているのはホシガラス。麦草峠で働き通しの姿を見ながら、ライチョウのように脚光を浴びてほしいと願わずにいられなかった。

 (福永保典)

 <ホシガラス> 大きさはハトくらい。頭はチョコレート色。顔から背、胸もチョコレート色だが、しずく型の白い斑点がある。しずくを星に見たてたのが和名の由来。主に本州中部以北の亜高山帯から高山帯にかけて生息している。乗鞍岳で1956(昭和31)年、巣卵が国内で初めて確認された。

 

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