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「共謀罪」法施行に募る不安 治安維持法で兄逮捕、伊勢の故・東さん遺族

東洋介さん

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 治安維持法への恐怖を戦後も抱き続けながら生きた男性が、伊勢市にいた。男性の兄が戦中に同法違反で逮捕されたことで母が深く傷ついた。男性は戦後も「正しいと思っても、考えを大声で言ってはだめ」と家族に話した。「共謀罪」の趣旨を含む改正組織犯罪処罰法が十一日に施行される。男性の遺族は「まるで治安維持法の過ちがなかったことのようにされている」と憤る。

 男性は伊勢神宮参道の酒屋に生まれ、二〇一三年に八十九歳で亡くなった東洋介さん。洋介さんの兄・永田和生さんは宇治山田中、旧制八高(現名古屋大)を経て、京都帝大に在学していた一九四〇(昭和十五)年、治安維持法で逮捕され、出所後の四四年にインドで戦死した。

 和生さんは京大で、社会主義や反戦を考える学生団体に所属し、目を悪くするほど本を読みふけった。洋介さんは兄を「正義感が強く家族思い。勉強会をしていただけで悪いことはしていない」と話したという。

永田和生さん

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 二人の母せいさんは手記で、和生さんが連行されたと知った日のことを「あと二カ月で卒業という二月、突然、京都より三、四人刑事がみえて、和生の部屋に案内せよという」。警察官は和生さんの社会主義研究を「研究の事は筋の立ったよきこともたくさんあれど国の法律に背く」と話したといい「ただただ驚きに驚いた。よもやあの子が」と記す。その後、京都へ何度も面会や裁判傍聴に行ったと書き残している。

 「母や和生兄が治安維持法でつらい目に遭ったことが強く心に残っていたようだ」。洋介さんの次女で、現在も伊勢市に住む竜神千抄さん(55)は振り返る。

 和生さんの戦中の日誌の一部は、学徒兵の遺書を集めた「きけ、わだつみの声」に掲載され、弟の洋介さんを気遣う記述もある。心優しい兄の影響を受けた洋介さんは戦後、時々共産党の平和活動を支援するようになった。それでも娘らには「人前で考えをぺらぺら話してマークされたら大変だ」と話したという。

 洋介さんの死の四年後、テロ対策を口実に「共謀罪」法が成立した。千抄さんは「警察が目を付ければ、後から理由をつけて監視も逮捕もできる。和生さんを逮捕した治安維持法と同じに思える」と話す。

 参院の委員会採決を省くなど強引な国会運営で六月十五日に成立し、一カ月もたたない今月十一日に施行される。「丁寧に説明しようともせず、国民を見下しばかにしている。こんな乱暴な政府が共謀罪を持つと、祖母や和生さん、父の苦しみが繰り返されるのではないかと本当に怖い」と不安は募る。

 生前、社会の右傾化を感じて洋介さんは「過ちを繰り返さないため、歴史を学ばないといけない」とよく話したという。千抄さんは強く感じている。「きっと父は、その言葉を今の政府に伝えたいと思う」

 (森耕一)

永田和生さんの日誌を読む竜神千抄さん。最後に実家に戻った年の「1943」「兄和生の遺書」のタイトルは東洋介さんがつけた=伊勢市古市町で

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