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<Life around the World> 輝くシニアライフ

 日本は世界有数の長寿国。はつらつとした姿のお年寄りも増えた。世界にも趣味や仕事、ボランティアなどで輝くシニアがいる。人生の曲折を乗り越えた先達の言葉には、含蓄や知恵が宿る。17日は敬老の日。すてきに年を重ね、活力ある毎日をすごす秘密を尋ねた。

市内のプールで子ども(手前)に泳ぎを教えるレオポルト・クフバレクさん=ベルリンで

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◆水は友達、飛び込み現役 ドイツ

 「ハロー、レオ!」。プールサイドで子どもたちの元気な声が響く。ハイタッチで応えるのは、百一歳のレオポルト・クフバレクさん。初めて泳ぎを習う地元の子どもにボランティアで教えて三十四年になる。「六十七歳でインストラクターの面接に行ったら『高齢過ぎる』と言われたけど、今に至っているよ」

 十代のころはベルリン市内の運河で泳ぎ、当時から地元のカヌークラブで活動してきたクフバレクさん。年金生活になったら、水に関わる活動をしたいと考えていた。ドイツ赤十字でライフガードの資格を取り、現在はベルリン南西部ツェーレンドルフのプールに週二回、バスで通っている。

 第一次大戦中の一九一七年生まれ。機械工として働き結婚。第二次大戦では生後四週間の長女を亡くし、自身もソ連軍の捕虜となった。戦後、専門学校で学び技術者になり、水道設備関係の会社を立ち上げた。

プールに飛び込むクフバレクさん=ベルリンで

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 運動が好きで二〇〇三年に心臓発作で倒れるまで、水泳や陸上などで四十四個のメダルを獲得した。三年前に九十五歳の妻に先立たれ、今は一人暮らしだが、毎日自分で食事を作り、自身が育てた果物でジャムを作ることもある。

 水泳教室に通うのは六〜七歳の子どもたち。初めて水に入る時には怖がる子もいる。「大切なことは、子どもたちに信頼されること」。子どもを通わせる親の中には、かつて彼に泳ぎを習った人たちもいる。

 「彼は自分が必要とされていると分かっている。だから精神力を維持できる」と教室の同僚ディーター・シュティラーさん(70)。豪快な飛び込みも披露してくれたクフバレクさんは「昔から子どもが大好きなんだ。若い人たちとのつながりがうれしい。できる限り続けるよ」。

 (ベルリン・近藤晶、写真も)

◆スポンジ筆でサラサラ 中国

地面に書いた詩について説明する景振中さん(中央の筆を持った男性)=中国・上海で

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 早朝の上海・魯迅(ろじん)公園は、太極拳やバドミントン、剣舞、社交ダンスなどをする人たちでいつもにぎわっている。そんな公園の中で、景振中さん(82)がアスファルトの地面に向かって静かに筆を運んでいた。

 「昔日齷齪不足誇 今朝放蕩思無涯…」

 唐代の詩人・孟郊(もうこう)が科挙に合格した喜びを詠んだ詩「登科後」をすらすら書いていく。公園での書道は雨天でない限り、朝8時から10時まで毎日続けている。

 書道の良さを尋ねると「頭が鍛えられることだね」と意外なことを言う。「書いている詩は全部暗記しているんだ」というわけだ。

 子どものころから書道好き。他の人が公園のアスファルトに書いているのを見て、自分もやりたいと思うようになった。「背筋を伸ばして書くおかげか、以前悩まされた背中の痛みがなくなった」のもうれしい。

忘れた詩をスマートフォンでカンニング。それもご愛嬌(あいきょう)=中国・上海で

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 見事な書きぶりに周りに見学の人が集まってきて、景さんとおしゃべりが始まった。家の中で書いていたら決して味わえない、この書道談議こそが「もっと続けたい」という本人の意欲につながっている

 ちなみに、アスファルトの上では墨汁ではなく水道水を使う。景さんが使っている筆も毛筆ではなくスポンジだ。廃品ソファのスポンジをもらってきて、使いやすい形に切り整えたものだという。100パーセントノーコストである。

 「登科後」を書いていた景さんの手が止まった。しばし考えて、ポケットから取り出したのはスマートフォン。どうやら詩の続きを度忘れしたらしい。スマホにダウンロードしてある虎の巻を拝借し、「春風得意馬蹄疾 一日看盡長安花」と締めくくった。書道という中国の伝統とスマホという時代の最先端が82歳の中に同居していた。

 (上海・浅井正智、写真も)

◆カネ持たずケセラセラ エジプト

商店街で野菜を売るヘディヤ・エルワンさん=カイロ市で

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 エジプトの首都カイロ市内にあるメガベリン商店街。野菜を並べた露天商の中にひときわ、しわの深い女性を見つけた。自称百二十歳のヘディヤ・エルワンさん。「百年前、この場所は商店街ではなかった。私が最初に露店を始めたの」と胸を張る。

 ギネスワールドレコーズ社によると、直近の世界最高齢の女性は百十七歳の日本人だったが、今年七月に亡くなり、新たな記録保持者を調査中という。エルワンさんの年齢が事実なら最高齢だ

 だが、同居する娘のゼイナブさんは七十歳。五十歳で出産した可能性は低く、疑わしい。出生証明書はなく、誕生日も記憶にない。十二歳で結婚し、ムハンマド・アリー朝の国王フアード一世が一九三六年に逝去した時点で、すでに子どもがいたという。つまり、少なくとも九十四歳以上とみられる。

 事実はともかく、高齢になった今も働き続けているのは間違いない。「家で座っているだけで、食事を出される生活はゴメンだね。自分の稼いだカネで暮らしたい」。心臓にペースメーカーを入れながらも店に立ち続ける背景には、強烈な自立心がある

娘のゼイナブさん(右)やひ孫と暮らす=カイロ市で

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 農村部からカイロに嫁ぎ、夫と始めた露天商。決して裕福ではない生活で、八人の子どもを育て上げた。以前は一緒に働いていたゼイナブさんは「もうやめてと言っても聞かない」と浮かない顔を見せつつ、「母のおかげで息子を大学に入れられた」と感謝する。

 長生きの秘策が振るっている。「決してカネをためない。明日のカネは明日やってくる」。宵越しの銭は持たず、食費に使った残りは家族に渡す。「運命は変えられない。だから、あなたも笑って過ごした方がいい」。思わず納得させられる人生訓だった。

 (カイロ・奥田哲平、写真も)

 

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