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認知症の人ら笑顔輝く 長野・岡谷、「カフェ」で調理や接客

認知症の人たちが調理や接客をする「ぐらんまんまカフェ」。藤田亀次さん(左)は調理担当だ=長野県岡谷市で

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 認知症などで、介護が必要なお年寄りが調理や接客を担当しているカフェがある。長野県岡谷市の「ぐらんまんまカフェ」。お年寄りは自分の役割を持ち、地域の人と触れ合うことが生きがいに。料理を運ぶテーブルを間違えても、お客さんは誰も文句を言わない。生き生きと輝くお年寄りの姿に元気をもらい、毎週ランチを食べに通う人もいる。

 「ごゆっくりなさってください」。赤ちゃんを連れた夫婦のお客さんがテーブルに着くと、店内で接客を担当する女性(79)がにこやかに話しかけた。この日のメニューは「ひじきご飯のオムライス 明太マヨソース」。調理場から卵を焼く音がして、セットのスープのにおいが漂うと、まもなく料理が完成した。すぐに女性が皿を運ぶが、向かった先は注文したのとは別のお客さん。女性は認知症があり要介護1だ。

 カフェでは調理、接客合わせて九人が働く。そのうちの五人は七十三〜九十四歳で認知症などがあり、介護施設を利用している。テーブルを間違えることもあれば、お客さんとの会話に夢中になって注文を取り忘れることもある。でも、お客さんが怒ったり怪訝(けげん)な顔をすることはない。

 「あちらの方ではないですか」。お客さんに教えてもらって料理を無事に届け終えると、接客係の女性はほっとしたように笑みを浮かべた。「お客さんは、みんな優しい。『ありがとう』と言ってもらえると、自分が人の役に立っていると感じられる」

 営業するのは週に一日、毎週火曜日の正午からの一時間半だけ。限定三十食を提供しているが、全国から来店客があり毎週完売だ。認知症の人たちが調理や接客をする飲食店などは他にもあるが、期間限定のものが多く、毎週開いているのは珍しい。

 要支援1の藤田亀次さん(92)は調理担当。ベレー帽、ネクタイ付きのシャツ、エプロンの制服をさっぱりと着こなすと、気持ちが引き締まるという。ひじきご飯を盛り付け、「おいしいと言ってくれると、うれしい」と表情を和らげた。

 カフェは、デイサービスやショートステイなどのサービスを提供する小規模多機能型の介護施設に併設されており、三年前に施設を運営する民間企業「和が家」が開業した。社長の今井祐輔さん(44)は「お年寄りは施設と家の往復だけになり、社会との接点を失いがち。役割を持って地元の人たちと触れ合える場所をつくりたかった」と話す。働いている五人は、施設利用者を対象に希望者を募ったところ、自ら手を挙げた人たちだ。

 調理を担当する人が野菜を切ったりすることはあるが、火を使うのは施設の介護士や調理師ら四人。ランチは一日一種類だが、メニューは毎週替わる。「ロールキャベツの野菜添え」や「うどんのカルボナーラ」…。幅広い年代に食べに来てほしいと、和洋を組み合わせたメニューは施設の職員らが考えている。

 接客係の女性は、最初は緊張して口数が少なかったというが、今は自分から「すてきなお洋服ですね」などとお客さんに声をかける。以前は曜日感覚がなかったというが、働き始めてからは「今日は火曜日でカフェの日だから、頑張らなくちゃね」などと言うようになった。

 常連客にとっても、カフェは憩いの場。地元の渡辺奈美さん(55)は、ほぼ毎週通う。二年前に、八十二歳だった母親を亡くした。母親は認知症になり自宅介護を経て施設に入居した。

 料理をするのが好きだったが、認知症になってからは、なかなか台所に立たせてあげることができなかったことが心残りと言う。「ここでは、みんなに見守られて認知症の人たちが生き生きと輝いている。母をここに来させてあげたかった。もし自分が認知症になったら、こんな場で働けたらいいな、と思います」

 (細川暁子)

 

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