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<あらゆる人を戦力に>(下) 能力発揮、中小企業でこそ

「今でも自分の中の隠された何かと戦っています」という岩田工さん=宇都宮市で

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 障害、介護、子育て、闘病など、働く上でさまざまな制約を抱える「わけあり人材」。前回の(中)(二日)は、元ひきこもりの男性が「どうせ自分は…」と自身をおとしめてしまうのを、勤務先の社長夫婦が支えて乗り越えた事例を紹介した。過去に罪を犯した人も制約を抱える。社会の目が厳しく、排除もされがちだからだ。しかし過去の自分を真正面から受け止めて店頭に立つ人がいる。

 「ええ、やってました。最初は睡眠薬、次に市販薬を十倍くらい飲む。そして違法薬物に…」。今回、訪れたのも、中古タイヤ販売会社「アップライジング」(宇都宮市)。接客担当の岩田工(たくみ)さん(45)は、自分の過去をはきはきと語る。よどみのない説明は、客に対する態度と変わらない。

 有名私立大を卒業後、大手商社に就職した。激しい出世競争。足の引っ張り合い、ミスの許されない仕事…。「いまでいう『ブラック企業』です。ストレスで眠れなくなり、薬物に手を出すように。ついに、渋谷の交差点で信号待ち中に車の運転席で失神。警察に捕まり、有罪判決を受けました」

 その時三十歳。五年間の執行猶予がつき、群馬県で薬物などの依存症を克服しようとする人たちが集まる「ダルク」に入った。しかし、また手を染めて金を使い果たした。「最後は自己破産です」

 各地のダルクを転々としたが、手応えはいまひとつ。栃木県のダルクに移り、アップライジングを紹介されたのは二〇一六年六月。面接では、社長の斎藤幸一さん(42)の妻で専務の奈津美さん(39)に、「あれもやった」「これもした」と、商社マン時代の実績やダルクでの取り組みなどをアピールした。ひと通り聞き終えた奈津美さんは尋ねた。「今のあなたから変わりたいですか?」。岩田さんは、何か言い当てられた気がした。

 「小学校から大学までラグビーをやってきて、自分は強い人間だと思っていた。でも、生きていくための強さとは、それとは違いますよね。その弱さを自分は見ようとしていなかったのではないかと」

 ダメな部分を含めて、本当の自分を出す−。ダルクでもそう言われ、吐き出したつもりだった。「でも、ここに来て、『今でも隠しているものがあるな』と気付くようになった」と振り返る。

 「ここでは人が人として触れ合える。社員旅行だってあるんですよ。仲間たちと日々接するうちに、自分には『まだ隠しておきたいという恐怖がある』と気付きました」

 こう話す岩田さんを、奈津美さんとともに支えてきた社長の斎藤さんは言う。「薬物依存の人は世間では犯罪者扱いされ、採用どころか面接の場にも立てないことが多い。でも、実際は薬物依存症という病気と真剣に向き合い、本気で変わりたいと思っている人」

 そんな人たちを支える上で、カギとなるのが「中小企業」だと、斎藤さんは言う。「中小企業なら一対一で向き合え、その人の特技や能力が見えてくる。大企業では難しくても、中小なら能力を発揮できる」

 今や人材不足で立ちゆかなくなる企業も出てくる時代。だが、これまでの社会では目を向けられなかった人たちの中に、人材はいる。だから、斎藤さんは、多くのわけありの人たちを迎え入れる。「そういう人材が力を発揮する仕組みを整えられるかどうか。企業の盛衰も、ここで分かれるのでは」

 (三浦耕喜)

 

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