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匠を訪ねて

[25]輪島塗沈金師 前古孝人さん(54) 本物の技輝く

輪島塗の座卓に模様を描く前古さん=輪島市河井町で

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地元児童に制作体験

 ノミで彫った線は力強く、時には柔らかくもある。漆を薄く塗って紙で拭き取り、彫ったところへ金粉や金箔(きんぱく)を入れる。漆が乾くのを待って拭き取ると、金色の模様が鮮やかに現れる。

 丈夫な下地に支えられ、江戸時代から現代に伝わる輪島塗の加飾「沈金」。前古(ぜんこ)孝人さん(54)=輪島市河井町=は沈金師の父孝雄さん(83)の背中を見て育った。

 「ネクタイを締めなくてもよいし、上司に怒られることもない」

 地元の輪島実業高校インテリア科に進んだ。二、三年時の担任は後に人間国宝となる前史雄さん(73)。輪島塗の奥深さを学んだ。

 卒業制作のついたては松にタカをあしらった作品。製図から木材の発注、木地づくり、下地塗り、中塗り、上塗り、加飾の全工程を一人でこなした。自身が手掛け、自宅に残る数少ない作品の一つ。卒業後は輪島漆芸技術研修所で腕を磨いた。

輪島塗のパネルに柔らかい線で描かれたフクロウ

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 「ものを作れば売れる時代でした」。仕事に追われる中、PTAや地域の活動にも励んだ。だが今日、輪島塗は苦境に立っている。

 生産額は最盛期だったバブルのころの三割程度に落ち込み、所属する輪島沈金業組合には三十年前、百十人いた仲間は現在、四十八人に。長男は高校の教師、長女は保育士になった。

 「この技術は誰かに伝えたい」。地元小学校で卒業制作の指導を続けるほか、仲間とともに市内小学校の六年生全員が体験する「My椀(わん)」づくりにも協力する。

 技術を披露すると、「へえー」「おおー」と驚きや感嘆の声が上がる。「教える喜びを感じますね」。そんな子らも高校を卒業すると、ほとんど輪島を離れていく。「それでもいい。彼らは営業マンにはなれなくても、魅力を伝える宣伝マンになってくれるから」

 信念は「常に本物を目指す」。機械ではなく、人が感動を与えるもの、一つしかないものを作り続ける限り、輪島塗を求める人もなくならない。そう信じて日々、仕事と向き合っている。

  =終わり

後記

 前古さんは釣り愛好家の中で最も知られた漆芸家の一人。「沈金魚拓パネル」を手掛けるからだ。形や色だけでなく、欠けたうろこまで忠実に再現。釣り上げた思い出はパネルとともに輝き続ける。「喜ぶ顔を見たら、損得勘定なしで仕事がしたくなるね」。釣り人はこんな心意気にも引かれるのだろう。 (松瀬晴行)

 

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