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匠を訪ねて

[17]靴職人 立野千重さん(33) 物語感じる一足

アトリエでつりこみの作業をする立野さん=金沢市長坂台で

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デザインと機能を両立

 ステンドグラスとアンティークの雑貨、使い込まれた工具に飾られた小さなアトリエ。靴職人の立野(たちの)千重さん(33)=金沢市長坂台=が、コンコンコン、コンッとリズムよく、くぎ音を響かせている。

 革をひっぱり木型に沿わせて、くぎで固定し、靴を形作る「つりこみ」の作業。制作するのは十九世紀ごろ、欧米で人気だったボタンブーツだ。縫製などに多大な手間と技術を要することから大量生産には向かず、今も作る人は珍しいという。

 ボタンを留め上げ、靴を足に密着させていくときの、かかとからふくらはぎにかけての美しい曲線。納得のいく形やくびれになるまで、試作用の革でつりこみと型紙の修正を繰り返す。履きやすさや機能美を求める一方、「コルセットのような窮屈な美しさも好き。デザインは絶対に妥協しません」と笑う。

 もとは大手の通販会社で洋服や雑貨の商品企画を担当していた。が、大量生産のものづくりに飽き足らず退職。語学留学先のフランスの「のみの市」でボタンブーツなど古い靴の美しさに魅了された。ただ、集めた靴は軒並み細身で壊れやすく、気を使って歩く日々。ふと、自分で作ってみたらと思い立った。

ボタンブーツ(右奥)や古布で作ったバレエシューズ(右前)など

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 帰国して、修業先の靴工房を東京・浅草に見つけ、師匠に習いながら古い靴の製法を試行錯誤。昨年四月、自宅脇にアトリエを構え、「TACHINO Chie」の名で、東京や金沢などの顧客の注文に応える。

 松やにと麻糸での縫い糸作りから、革をつみ重ねてひたすら磨くヒール作りなど多くの工程を経て、長いもので一月ほどかけ一足を作り上げる。「ひと針、ひと針丁寧に。雰囲気のある靴、やっと出会えたというものを作れたら幸せ」と語る。

 ウエディングドレスの共布を使った花嫁用の靴や、地元醸造会社の前掛けを生かしたバレエシューズ、おばあちゃんの洋服を再生したスリッポンなど布靴も手掛ける。「手仕事にしかできない、物語性を感じる靴作りを続けたい」と意気込む。

後記

 ボタンブーツは、専用の細い金具を使い、一つ一つボタンを留めて履くらしい。立野さんは、そんな手間や所作を愛することで、生活が豊かになると感じている。アトリエで出してくれた手作りのドライフルーツはおいしかった。玄関にさりげなく置かれた、履き込んだ黒いブーツがすごくかっこよく見えた。 (小椋由紀子)

 

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