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匠を訪ねて

[12]石材彫刻師 中谷篁さん(81) 石の声聞き 削る 

自宅の仕事場で作品づくりに励む中谷さん=小松市滝ケ原町で

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無心が生む鋭さ柔和さ

 今にも跳びはねそうなかわいらしいウサギ、炎をまとった眼光鋭い不動明王像、柔和な表情でほほ笑むお地蔵さん。自宅ギャラリーに並ぶ二百体以上の作品はすべて、方形に切り出された一つの石から生み出された。

 小松市滝ケ原町の石材彫刻師中谷篁(なかやたかむら)さん(81)は、この道に入って六十余年。手で石を彫り続ける県内でも数少ない石工の一人だ。一昨年の十月には県の「ふるさとの匠(たくみ)」に認定された。

 無機質なものから生み出す地道な作業だが、石が「こう彫ってくれ」と呼び掛けてくるように感じるときがあるという。

 大小さまざまなツルやチョンノという道具で石を削り、細かい彫刻に使うタガネで形を整えていく。表面は砥石(といし)で磨き上げる。「石は曲がりもしないし、くっつきもしない。ただ削るしかない。一度削ってしまうと後がきかない」と難しさを語る。完成間近で欠けてしまったことも数知れない。

 滝ケ原はかつて石材産業が盛んな町だった。尋常小学校を卒業し、丁場で滝ケ原石の切り出しに従事した後、亡父の岩見儀吉さんと同様、石材彫刻の道へ。父の仕事ぶりを見て、石を扱う技を身に付けていった。

完成までに9カ月かかった大作の「孔雀明王」(台座含め高さ約95センチ、重さ約140キロ)

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 地元の鞍掛山の頂上付近にある十一面観音像をはじめ、神社のこま犬や玉獅子、十二支など数々の作品を制作した。

 機械の導入、コンクリートの使用や中国産の安価な石の流入で注文は減った。「もうかる仕事ではない。今はボランティアのようなもの」と笑う。それでも「たくさんの人と出会えたことが財産」と話す。近年は、年に三百人ほどがギャラリーを訪れ、外国から来る人も増えている。

 制作に集中し、気付くと日が暮れていることもある。「無心になれる。大変なことも忘れられる」と笑う。

 「人が喜んでくれるのが一番。よくなってほしいという一念でたたいている。これからも石をたたき続けるんやろな」

後記

 中谷さんは温和な人柄で、朗らかに笑って話す。石を彫るときは、寡黙で、その表情には何か石に対する深い愛情のようなものがこもっているようだ。

 今や滝ケ原町で石材産業に従事する人は数少ない。技術が進歩する中、衰勢に向かう手工業の技をどのように記憶していくのかも考えなければならないのだろう。 (浜崎陽介)

 

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