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匠を訪ねて

[7]文化財保存修復技術者 中越一成さん(69) 美の遺産 未来へ 

工房に運び込まれた文化財の傷み具合を調べる中越さん=金沢市出羽町で

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表具の技で傷 元通り

 折れ目がいくつも走る掛け軸に、無数の虫食い穴が散らばる古文書、ほこりだらけの甲冑(かっちゅう)−。

 金沢市出羽町の県立美術館の付属施設「県文化財保存修復工房」には、重要文化財など毎年二十件前後が運び込まれる。スタッフは一つ一つの傷の状況を調べ、あてがう和紙の厚さやのりの割合を決める。勘に頼るのではなく、理詰めで作業を進めていく。

 中越一成さん(69)=金沢市片町=は工房の立役者。一九九七年に開設された工房を運営する文化財保存修復協会の代表理事を務め、若手の指導にも当たっている。

 作業は復元ではなく、あくまでも修復。県指定文化財の掛け軸「印鑰明神垂迹図(いんにゃくみょうじんすいじゃくず)」(南北朝時代・県七尾美術館蔵)では、折れ曲がって穴が開いた絹地の裏に和紙を丁寧に貼り直し、金色の表具部分を取り換えた。「作品の姿を百年後も残すことが使命」と言い切る。

 本業は百年以上続く表具屋の三代目。京都での修業を経て、三十歳で片町の店を継いだ。障子の張り替えや掛け軸、びょうぶの表装などを繰り返す毎日。「このまま一生を終えるのはつまらない」。八三(昭和五十八)年の県立美術館新設を受けて、所蔵作品の修復作業を請け負うようになった。

(上)ぼろぼろで無数の折れ目がついた修復前の「印鑰明神垂迹図」(下)掛け軸部分を取り換えるなどして仕上げられた修復後(いずれも県文化財保存修復工房提供)

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 転機はその五年後に京都で開かれた「国際文化財保存科学会議」。世界各国で日本の表具技術が重宝されていると知った。「家業としてやってきたことが世界で評価されている」と胸が高鳴った。

 それからは国内外の美術館の修復室を見学。修復した状態を長く保つため、特殊な電子線を当てて作品と同年代までわざと劣化させた絹や、乾いても紙が引きつらないよう長年発酵させてやわらかくしたでんぷんのりなど貴重な修復材をそろえ、北陸地方の拠点に成長した。

 工房のスタッフは若手を中心に十二人。「若いもんには、わしを越えて行け、と言っとるんです」。過去の遺産を未来に残すため、緻密な技術を伝えていくことが今の自分の仕事だと考えている。

後記

 「根気がないと続かん仕事や」と豪快に笑う中越さん。その周りでスタッフが、古文書一枚一枚の染みを抜き、一ミリほどの虫食い穴まで埋めていた。

 工房は二十四時間防犯装置が作動し、火災報知機も完備。「決して失敗は許されない」。その言葉に、この世でたった一つの作品を預かる心構えを感じた。 (兼村優希)

 

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