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匠を訪ねて

[6]しょうゆ職人 鳥居正子さん(58) 発酵 匂いで読む

かびないようもろみをかき混ぜる鳥居さん=いずれも七尾市の鳥居醤油店で

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怠けず 瓶詰めも手作業

 手間を惜しまず、すべての工程が手作業。手の感覚を頼りにこうじを育て、もろみを熟成させる間も手入れを欠かさない。そうやって搾り出したしょうゆは、造り手の味になる。「この仕事に向いていたのかな」。鳥居醤油(しょうゆ)店三代目おかみの鳥居正子さん(58)=七尾市一本杉町=は、女性にしては少し大きな手を広げて見せ、ほほ笑む。

 しょうゆ店に嫁ぎ、しょうゆを造ることが必然だったのかもしれない。二代目おかみの下、作業場で苦楽をともにし、製造を学んだ。こうじをねばねばに発酵させてしまったり、瓶詰めの段階でこぼしてしまったり、失敗を重ねながら伝統を身に付け、三代目を任されて二十年以上。伝統製法を守っている。

 ゆでた大豆といった小麦を混ぜて人肌に冷まし、こうじ菌をつける。それを木箱に小分けして、土壁に囲まれた室で三泊四日寝かせ、こうじを育てる。ほうっておくと熱が高くなり、発酵しすぎてしまう。その日の気温や湿度、匂いを経験に裏打ちされた感覚で読み取り、熱を逃がすよう手で返す。

手作業にこだわり2年熟成させたしょうゆとだしつゆ。瓶のラベル貼りも手作業

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 出来上がったこうじは、直径一・五メートル、高さ二メートル超の木のおけにためられ、二夏を経てもろみになる。かびないよう、毎日のように長い棒でかき混ぜる作業が続く。もろみを麻袋に入れ「ふね」と呼ばれる手動の搾り器にかけると、生じょうゆが滴る。薪を燃やして鉄釜で火を入れ、冷まし、ひしゃくで一本一本瓶詰めする。

 分業ではなく、すべての作業を鳥居さんが行う。きつい肉体労働だが「大切なのは途中で怠けないこと」。忙しいときは、散歩に行く必要がないほど作業場を歩き回る。機械化すれば効率的になり、均一な味に仕上げられるが、大正時代から使っているおけや蔵でなければ、納得のいくしょうゆは造れない。古い道具と人の手が、優しい味を生み出す。

 気を使っているのは原材料の安心安全。「子どもも口にするからね」。大豆は珠洲市、小麦は中能登町の信頼できる農家に作ってもらっている。甘みをだすにも化学調味料に頼らず、ほんの少しの蜂蜜を加える。「毎年同じことの繰り返しでも、全然飽きない。作業で季節を感じられるし、こうじやもろみが育っていくのが目に見えて分かるから」

後記

 店があるのは、昔ながらの街並みが残る一本杉通り商店街。鳥居さんは観光客を作業場に通し、しょうゆ造りや街について教える語り部もやっている。「ものづくりをきっかけにいろいろな人と出会えるのが楽しい」と語った笑顔に、こだわりを持った職人の顔とは違う一面を見た。ほんのり甘いしょうゆにはきっと、温かい人柄がにじんでいる。 (鈴村隆一) 

 

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