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匠を訪ねて

[5]畳職人 立野善吉さん(81) 角の仕上げが要

手際よく畳の修理をする立野さん

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先人の縫い方に競争心

 金沢市大工町にある「畳立野」。北陸随一の繁華街、片町に近い静かな路地を入ると、江戸末期に建てられた町家の店構えが見える。畳職人の立野善吉さん(81)は、この店の七代目だ。

 父の背中を追って職人の道に入ったのは戦後すぐのこと。「きょうだいがたくさんおったし、自分は長男だから、家族が食ってくには自分がやらんならんと思った」

 戦災をまぬがれた金沢は古い町家が数多く残った。町家と畳は切っても切れない縁。家の数だけ畳の需要もあり、旧市街地(森本から三馬辺り)で傷んだ畳を直す職人も今の倍以上の七十人はいたという。

 お得意さんからかかってくる電話。傷んだ畳表の取り換えや畳表をいったんはがして裏面を使う「裏返し」などを頼まれると十キロはある作業台をかつぎ、父と歩いて出かけた。

 「明治生まれのおやじは頑固でね。『見て盗め』って何も教えてくれんかった。でもヘタなことをしたら定規でたたかれて。お客さんの前でも、どやしつけられた」

風情がある町家の作業場=金沢市大工町で

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 時がたつにつれて洋間が増え、畳を直すのも手縫いから機械縫いへと変わるなど、畳をめぐる環境は変わったが、畳職人にとっての最難関は同じという。

 畳表に続いて黒などの縁を縫い込む際、畳の角は力加減が難しいため「角の付近でいかに縁を真っすぐ見せるかが職人の腕の見せどころになる」と語る。

 こうした難所を乗り越える上で助けになるのが、畳に宿る先人たちの知恵。補修の際に畳表や縁をめくると、以前に別の職人が縫い込んだ時の工夫の跡をうかがえることもあるため「そんな仕事を見ると勉強になるし、競争心が湧いてくる」。

 立野さんは今、八代目となる長男の克典さん(52)とともに仕事を続ける。九代目候補の孫は男女一人ずついるが、跡を継ぐかは本人の意思に任せるつもりだ。「自分で決めたことこそ、続けられるのだと思うから。うちは代々、そうしてきたしね」。職人の顔はいつしか優しい祖父の顔に変わっていた。

後記

 職人といえば「頑固」「気難しい」と連想するが、立野さんのまとう雰囲気はその逆。丁寧で優しく、謙虚な語り口が印象的だった。現代の名工に選ばれた腕前のみならず「この人なら安心できる」という人柄。金沢の町家を支えてきたのがこうした方々だったのかと思うと、うれしく思えた。 (榊原崇仁)

 

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