トップ > 石川 > 「守る」 > 記事

ここから本文

「守る」北陸中日・石川テレビ共同企画

【第2部 伝統】 こだわり、根気 土塀覆う

自分が作った薦を見る坂井利男さん=金沢市の長町武家屋敷跡で

写真

長町武家屋敷跡の薦掛け

 金沢の冬の風物詩でもある長町武家屋敷跡の「薦掛(こもか)け」。薦作りをする坂井利男さん(74)=金沢市額谷町=は「時間を惜しまず、きれいに丁寧に。それが良いものを作るこつです」と話す。市役所を定年退職後、二〇一二年に担い手不足を知って手を挙げた。伝統を託されたという責任感を胸に作り続ける。(小坂亮太)

 「ジャッ、ジャッ」

 わらのこすれる音だけが、等間隔で響く。自宅の納屋で、坂井さんが右手でつかんだわら四、五本のしりを、板の上で「トントン」とたたいてそろえる。それをわら縄で、ぐっと結んで仕上げていく。

 薦は縦九十五センチ、横三・六メートルの定型。横を伸ばす形で仕上げていくが、一時間で作れるのは三十センチくらい。わらを結ぶわら縄も自分で作らなければならず、一枚の完成に五日がかかる。「雨や雪が入らないよう隙間は小さく、見てくれも良く、長持ちするように。根気の世界です」

 土塀の薦掛けは江戸時代に始まったとされる。一九八六年からは金沢市が受け持ち、総延長約一・一キロの土塀に施す。最近は観光客にも人気の景色だが、市景観政策課によると、目的は土塀の保護にある。染み込んだ水分が氷結して損傷したり、雪で土が剥がれたりするのを防ぐ。

 薦は全部で約五百枚必要で六、七年使ったら新調する。坂井さんは毎年、約五十枚を作る。今年からは兼六園の分も作り始めた。

 きっかけは新聞記事だった。富山県の高齢夫婦が薦作りを引退すると知り、「せっかくの伝統が途絶えるのは忍びない。ただ家にいるより人の役に立ちたい」と思い立った。実家が農家で、子どものころわら仕事を手伝った経験もあった。

 「薦掛けは、私らがコートを着るようなもの。本来の役目は見せるためではないが、見た目も温かい感じがある」。土塀を守る薦を見渡して坂井さんはほほ笑んだ。通りがかった観光客の女性はスマートフォンを向けた後、顔を近づけてじっと見つめていた。

 稲作のやり方が変わり、わらの調達すら難しくなっている。「薦は一人の力でできてはいない。こだわっているからこそ、景観も醸し出すのだと思います」

石川テレビで今夕特集

 北陸中日新聞は石川テレビ放送と「守る」という言葉をもとに取材し、共同報道企画「守る」を隔週で、連載しています。年内はこれが最終回です。石川テレビの特集は13日午後6時15分ごろからの「石川さんプライムニュース」で放送します。

 

この記事を印刷する

PR情報

地域のニュース
愛知
岐阜
三重
静岡
長野
福井
滋賀
石川
富山
地方選挙

Search | 検索