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のれん 体が持つ限り 宇出津「湊湯」漁師温め85年

創業85年を迎え「常連客のためにのれんを上げ続ける」と決意を新たにする源田昭雄さん(右)と妻由美子さん=いずれも能登町宇出津で

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源田さん夫婦 能登町唯一灯を守る

 能登町宇出津地区にある町内唯一の銭湯「湊湯」が今年、創業八十五年を迎えた。二代目の源田昭雄さん(71)と妻由美子さん(70)は、かつて漁師町として栄えた宇出津の歴史を番台から見守り続けてきた。「常連客が足を運んでくれる限り、何年でも店を続けたい」と思いを新たにしている。(加藤豊大)

 毎日午後一時、昭雄さんは向かいの自宅から湊湯のボイラー室に行き、燃料の薪をかまに入れる。午後二時にのれんを上げると、番台には由美子さんが座る。「いつもより早いね」。訪れた地元商店主や親子連れに親しげに声を掛ける。

 昭雄さんの父が東京都江東区の銭湯で修業をした後、一九三三年に古里で創業。現在の建物は四八年に建て替えたもので、唐破風(からはふ)造りの屋根や浴場の富士山のペンキ絵をはじめ、設計や内装は東京風だ。四十年ほど前に、昭雄さんが高校卒業後に勤めていた旧石川銀行を辞め、跡を継いだ。

70年前に建て替えられた当時の姿が残る「湊湯」

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 「昔は開店から閉店まで、客が途切れなかった。水温を保つのに薪を入れ続けていたら、いつの間にか一日が終わった」と昭雄さんは振り返る。客の中心は、湊湯にほど近い宇出津港で働く漁師たち。タオルを頭に巻いたままぞろぞろと現れた。寒さが厳しい冬場は、水温を少し高めにすると「生き返る」という声が浴場から聞こえた。

 しかし、七七年に二百カイリの排他的経済水域(EEZ)が設定されると、サケやブリ、イカ漁で栄えた宇出津港も下火に。漁師ら人の足も遠のいていき、次第に活況だった周辺の商店街は寂れていった。

 宇出津に五軒ほどあった銭湯も今は湊湯だけ。「一日の客は三、四十人。生活するのに精いっぱい」と話す。それでも店を開くのは、毎日のように足を運ぶ常連客の顔が思い浮かぶからだ。「出て行くときの顔でその日の湯加減がよかったかどうか分かる」。さっぱりした表情を見るとほっとするという。「うちを当てにしてくれる人たちがまだいる。体が持つ限り、のれんを上げ続ける」と語る。

 

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