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共創 アジアへ

第1部 トヨタ 道を知る(5)

トヨタ・インドネシア・アカデミーで生産ラインの仕組みを学ぶ学生たち=インドネシア・カラワンで(岸本拓也撮影)

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 起床は毎朝四時半。十七歳から二十二歳の若者たちが朝の祈りや体操を終え、一緒に朝食を取る。授業は午前七時十五分から午後四時までびっしりだ。

 インドネシアの首都ジャカルタから東へ六十キロほど。インドネシアトヨタが三つの工場を構える工業地帯カラワンに、全寮制の職業訓練学校「トヨタ・インドネシア・アカデミー」はある。

 トヨタがインドネシアの産業を引っ張る将来の現場リーダーを育てるため、二〇一五年十月に立ち上げた。今は女性二人を含む六十四人が寝起きを共にしながら学んでいる。

 日本のトヨタ工業学園(愛知県豊田市)の全寮制がモデルで、アジアではインドに続く二校目の訓練校となる。所長のアミル・クスニ(51)は「子は宝。親が子どもの成長をすべて見届けるインドネシアの文化的要素に合っている」と話す。

 車の生産に必要な知識や技能だけでなく、語学や数学、芸術と学ぶ分野は幅広い。昨年八月に入学したリフキ・メイナウファルニ・アリフィン(18)は「なぜ現場で規律とチームワークが大切なのか『心構え』がよく分かった。入学してから二百パーセント成長した」と感じている。

 リフキは地元カラワンの工業高校を最優秀の成績で卒業し、「いつか空も陸も海も移動できるような車をつくりたい」と自動車業界を志した。アカデミーを選んだのは、短期間で実践的な技能を習得できることに加え、「費用のこともあった」と打ち明ける。

 学費はすべて無料で、生活費も提供される。世界銀行の調査によると、インドネシアでは人口の八割に相当する約二億人が月収約三十四万ルピア(約三千円)以下で暮らす。都市部のジャカルタと、島しょ部との経済格差も大きい。優秀でも進学を諦めてしまう子どもは少なくない。

 「何もしなければ、ずっと低賃金のままだ。いつまでたっても国が良くならない」。アカデミーの立ち上げを指揮したインドネシアトヨタ前社長の野波雅裕(63)は、校舎の玄関に置かれた小さな石に「隗(かい)より始めよ」と日本語で刻んだ。現状を変えるには自分たちから。「ものをつくる前にまず人をつくる」。現地法人を構えて半世紀近く受け継ぐ信念があった。

 インドネシア全土から人材を集め、十年の間に合計千人の技能者を輩出する目標を立てている。学生は一〜二年学ぶと、インドネシア政府のお墨付きを得た技能修了証が得られ、就職や転職が有利になる。

 卒業した一、二期生六十四人は全員インドネシアトヨタに就職している。が、設立当初から掲げる理想は高い。現社長のワリ・アンダン・チャフヨノ(54)は「どこで仕事をしても構わない。ものづくりを学んだ人材が外に広がっていけば、最終的にはインドネシアの産業全体への貢献になる」と話す。今夏からは部品会社の若手の短期訓練も受け入れる。

 トヨタ社長の豊田章男(62)は、世界中の道を走り、知ることが「もっといいクルマづくり」につながると考えている。現地の暮らしや文化と向き合うことが、その第一歩となる。

 (敬称略)

 =第一部終わり

 (後藤隆行、岸本拓也が担当しました)

 

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