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知るコレ!

本来の姿で生活・繁殖 動物園の「動物の福祉」

新しい屋内展示室(おくないてんじしつ)で過(す)ごすシャバーニ。タワーは屋外運動場(うんどうじょう)にもある=名古屋(なごや)市千種区(ちくさく)の東山動植物園(ひがしやまどうしょくぶつえん)で

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 日本にいながら世界中(せかいじゅう)の魅力的(みりょくてき)な動物(どうぶつ)たちに出合える動物園。「動物を見せる」以外(いがい)に、環境問題(かんきょうもんだい)などの学びや希少(きしょう)動物の「種(しゅ)の保存(ほぞん)」の場としての存在感(そんざいかん)が、年々増(ま)しています。飼育(しいく)環境や方法(ほうほう)をより良(よ)くしようという意識(いしき)も高まっているようです。 (辻紗貴子(つじさきこ))

 東山動植物園(ひがしやまどうしょくぶつえん)(名古屋(なごや)市千種区(ちくさく))では六日、チンパンジーとゴリラがすむ新施設(しんしせつ)「アフリカの森」の一般公開(いっぱんこうかい)が始(はじ)まりました。「イケメンゴリラ」として有名(ゆうめい)なシャバーニたちが屋内(おくない)で、数本の柱(はしら)にデッキやロープなどを組み合わせた高さ約(やく)五メートルのタワーの上などで過(す)ごす様子(ようす)を、訪(おとず)れた人々が楽しそうに見ていました。建設(けんせつ)に携(たずさ)わった今西鉄也(いまにしてつや)さん(47)は「野生のチンパンジーやニシローランドゴリラは一日の六、七割(わり)を樹上(じゅじょう)で過ごします。ここでもそうした動(うご)き方ができるようにしました」と話します。

 飼育下(しいくか)の動物ができるだけ快適(かいてき)に、苦痛(くつう)を受(う)けずに充実(じゅうじつ)して生活できるようにする「動物の福祉(ふくし)」という考え方が、この数年で国内の動物園に広まっています。一九六〇年代(ねんだい)のイギリスで、劣悪(れつあく)だった家畜(かちく)の飼育状況(じょうきょう)を改善(かいぜん)しようと生まれ、現在(げんざい)は実験(じっけん)動物やペットにもあてはめられます。全国(ぜんこく)百五十一の動物園などが加盟(かめい)する日本動物園水族館協会(すいぞくかんきょうかい)も昨年(さくねん)から研修会(けんしゅうかい)を開始(かいし)。岡田尚憲事務局長(おかだなおのりじむきょくちょう)(65)は「動物が幸(しあわ)せで健康的(けんこうてき)に暮(く)らすことで、来園者(らいえんしゃ)に動物の本来の姿(すがた)を見てもらえます」と意義(いぎ)を話します。

 獣舎(じゅうしゃ)の環境(かんきょう)を野生に近づけるのも、この考え方に基(もと)づく取(と)り組みです。例(たと)えば元来、草食動物は一日の約(やく)七割は食べ物(もの)を探(さが)しているので、餌(えさ)を与(あた)えられる飼育下では「退屈(たいくつ)な時間」が長くなります。二〇一三年に新しくなった東山動植物園のアジアゾウ舎「ゾージアム」では、人工岩を置(お)いてゾウが体をこすり付(つ)けて古い角質(かくしつ)を落(お)とせるようにし、人工岩に開(あ)けた穴(あな)に餌を入れて探させます。飽(あ)きさせない工夫(くふう)です。

 福岡県(ふくおかけん)の大牟田(おおむた)市動物園では一五年、ライオンの麻酔(ますい)なしでの採血(さいけつ)に成功(せいこう)しました。麻酔薬(やく)は量(りょう)の見極(みきわ)めが難(むずか)しく、間違(まちが)えると目覚(めざ)めない危険(きけん)があります。体を伏(ふ)せたり刺激(しげき)に慣(な)れたりする練習(れんしゅう)を繰(く)り返(かえ)し、その後には必(かなら)ず餌を与えてライオンに嫌(いや)な印象(いんしょう)を残(のこ)さないようにします。広報(こうほう)の冨沢奏子(とみさわかなこ)さんは「動物が自発(じはつ)的に協力(きょうりょく)するようにできれば、病気(びょうき)の早期発見(そうきはっけん)にもつながります」と言います。

 「動物園(どうぶつえん)の究極(きゅうきょく)の目的(もくてき)は『見せる』から『種(しゅ)の保存(ほぞん)』になっています」と東山(ひがしやま)動物園の茶谷公一副園長(ちゃやこういちふくえんちょう)(51)は話します。動物の福祉(ふくし)は種の保存とも密接(みっせつ)に関(かか)わるそうです。

 二〇一三年にメキシコ市のチャプルテペック動物園から受(う)け入れた「メキシコウサギ」は、日本の動物園では初(はじ)めて東山動物園が繁殖(はんしょく)に成功(せいこう)しました。茶谷さんらは、生息地(せいそくち)や現地(げんち)の獣舎(じゅうしゃ)にある「サカトン」という草を、ウサギが食べる以外(いがい)に巣(す)や隠(かく)れ場所(ばしょ)に使(つか)うことに着目(ちゃくもく)。国内で代用(だいよう)できる草を探(さが)して獣舎に植(う)えたところ、翌年(よくねん)に赤ちゃんが誕生(たんじょう)しました。動物の暮(く)らしやすい環境(かんきょう)づくりが繁殖にも良(よ)い影響(えいきょう)を与(あた)えたのです。

 国際自然保護連合(こくさいしぜんほごれんごう)(IUCN(アイユーシーエヌ))日本委員会事務局長(いいんかいじむきょくちょう)の道家哲平(どうけてっぺい)さん(38)によると、国内では一〇年に名古屋(なごや)市で開(ひら)かれた生物多様性条約第(たようせいじょうやくだい)十回締約国会議(ていやくこくかいぎ)(COP10(コップテン))を機(き)に、動物園でも生物多様性を守(まも)るという機運(きうん)が高まりました。また、人による環境破壊(はかい)で野生動物のすむ場所が減(へ)る中、「生息地と動物園が同時進行(しんこう)で動物の数を増(ふ)やそうという動(うご)きが、世界(せかい)的に広がっています」。道家さんは「日本では人と自然との関わりが薄(うす)れています。関心(かんしん)を持(も)つきっかけとして動物園の重要(じゅうよう)性はさらに高まるのでは」と期待(きたい)します。

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